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第18話
「……あの外国人、伊織の新しい彼氏?」
突然響いた東吾の声に、ビクリと体が震えた伊織。
大好きだった声を、無意識に恐怖の対象として捉えた体に伊織は内心狼狽えた。
「あんなに引っ付いちゃって……」
下を向いていた東吾が顔を上げた。
暗闇の中でも分かる、怒りと嫉妬にけぶる瞳が伊織を追い詰める。
「俺んときとは大違いだな」
伊織を捉えたまま、不敵に笑う東吾。
「なぁ、あの外国人にはどこまで許した?ハグ?キス?セックス?」
「だ、ダンは、そんなんじゃ…」
伊織の声は、体と同じように震えていた。
「ふーん。でもまぁーどっちでもいいけど」
自分に近づいてくる東吾に、伊織は壁づたいに逃げるも、すぐにキャビネットにぶつかった。
「"東吾 には関係ないこと"だし、な?」
今まで感じたことのない東吾の激情に、伊織は完全に怖気づいていた。
「伊織が、泣こうが喚 こうが、俺には関係ない。そうだろ?」
先ほどの青年に向けたものとは対照的な笑顔の東吾が、伊織の頬に触れようと手を伸ばす。
――パシッ――
暗闇に乾いた音が響いた。
「あっ…」
伊織は、恐怖のあまり咄嗟に伸ばされたその手を払っていた。
伊織から目線を外し、払われた自分の手を見つめる東吾。
東吾の視線から解放された伊織は、元来の性格が芽を出し、
「そ、そうだ!関係ない!!」
思ってもないことを口にした。
伊織の言葉に、東吾がゆっくり顔を上げる。
再び視線を絡ませられ、伊織は一瞬怯むもなんとか声を絞り出す。
「お、俺達は……わ、別れたんだっ!だ、大体、と、東吾が好きな奴ができたって、別れようって、い、言ったんだろっ!!」
「ああ、言った」
「な、何、開き、直ってんだよ!」
悪びれる様子もなく、淡々と答えた東吾に、伊織は怯えているにも関わずカッとなった。
「じ、自分から告白してきたくせに、すぐに他の奴に目がいって、簡単に別れようとか言って……。しかも、別れたのに、なのに、俺に構ってきて。挙句、こんな……ふざけんな!!俺のこと散々引っ掻き回して、面白かったか?!お前に引っ掻き回されてる俺は、滑稽だったか?!俺は、俺は……」
徐々に視界がぼやけてきた伊織は、慌てて視線を逸らしたが、
「それはこっちの台詞だ」
東吾の言葉に、逸らした視線を戻す。
そこには苦しむような東吾の顔があった。
「やっと…やっと付き合えたのに、伊織は俺を見なくなった。何を言っても返してくれない。返してもらえたかと思ったら、"別に"だの"やめろ"だの…。よくよく考えたら、伊織から"好き"って言われたことがなかったことに気づいた。だから思った。"伊織は天邪鬼だ"と思っていたのは俺の思い違いで、本気で俺のこと避けてたんじゃないかって……。なぁ、伊織?お前は、俺のこと、本当に好きだったのか?それも、俺には関係ないことなのか?」
静かに苛立った声が、伊織を責める。
東吾の言葉を聞いた伊織は、自分の天邪鬼な言動が東吾を追い詰めていたことを知り、胸が痛んだ。
と同時に、
「……好きだったじゃない」
本来の目的である"自分の気持ちを伝える"ため、意を決した。
「お、俺は……」
"今も東吾が好きなんだ"そう続けようとしたが、
「そうか、意外だったよ、伊織は好きでもない奴とでも付き合えるんだな……」
伊織が最後まで言葉を告げる前に、東吾が口を挟んだ。
「違っ、そうじゃなッ!?」
伊織は慌てて訂正をしようとするも、
――ダンッ――
その願いは叶わず。
東吾に肩をグッと引っ張らた伊織は床に尻餅をついた。
「イッ……」
下を向いて痛みを堪える伊織を見下ろし、東吾はゆっくりと口角を上げ、
「……やっぱり俺だけだったんだな」
伊織に馬乗りになる。
急に重みを感じた伊織が顔をあげると、
「ひっ!!」
狂喜に満ちた笑顔の東吾が目に入った。
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