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第3話
スナックから歩いて十数分。
流行に左右されない造りのアパートの二階が、双葉の部屋だ。
「……なんかあった?」
上がってすぐ、遠慮無くベッドに座って後ろに両手を付く。
「メッセージ、見てない……?」
「……あー、ゴメン。見る暇なかった」
ポケットから携帯を取り出すと、遠慮がちだった双葉が駆け寄って、その手を摑んだ。
「……じゃ、じゃあ……見なくて、いいから」
「………」
俺の前に両膝を付き、見上げる双葉。
その瞳が、何処か甘え縋る様に潤む。
いつもと違う雰囲気に、俺は内心、焦りと期待に心を震わせた──
*
卒業してからも、悠は俺のうちに来て惚気を吐いた。俺は兄貴のつもりで心を広く持ち、カウンターを挟んで話を聞いてやる。
『男同士の結婚って……どうすりゃいーか解んねーよ』
『一般的には、養子縁組、だね』
『……マジか』
悠が溜め息をつく。
『やっぱ夫婦って訳にはいかねーんだな』
『………なんかあった?』
『いや……』
差し出した水割りを口にした悠は、浮かない雰囲気を払拭し、八重歯を見せて照れたように笑う。
『……双葉に、プロポーズ……した』
『へぇ……』
涼しい顔をしながらも、モヤッとした気持ちが湧き上がる。
『……じゃ、今度双葉連れて来なよ。お祝いしようぜ』
……しかし、それから。悠から音沙汰がなく……
そろそろ連絡しようと思った矢先に、携帯に連絡が入った。
──浜田くん、だね。
双葉の兄の、和也です。
申し訳ないが、君に頼みたい事があるんだ。
……双葉の様子を、見に行ってくれないか?
──実は先日、双葉が発作を起こした際………自殺未遂、してしまって………
……いつもこの時間には双葉の所に寄ってるんだが……今、店が忙しくて抜けられそうに無くて……
「……」
何故俺に掛かってきた?
悠は、何をしてんだ……
……自殺……?
幸せの絶頂にいる筈の双葉が……何で……?
酷く混乱した頭を、鈍器でかち割られたような強い衝撃が走る。
緊迫した和也からの電話に、俺は悠の事など構っていられず、直ぐにスナックを飛び出した。
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