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第4話
息を切らせ、辿り着いた双葉のアパート。
吐く息は白く、冷たい空気がピンと張り詰めている。
チャイムを鳴らした後、妙に緊張した痺れが全身を駆け巡っていた。
「……かず、にぃ……?」
おずおずと開けられたドアの隙間から、双葉が少しだけ顔を覗かせる。
その瞳は何処か虚ろげで、怯えている様にも見えた。
「はは、ざんねーん!」
務めて明るく振る舞う。
「………」
「熱いコーヒー、飲ませて。双葉」
閉まりそうになるドアに手を掛け、強引にこじ開ける。
玄関の端に避けた双葉の許可無く、靴を脱いでズカズカと上がる。
「やっぱり、中はあったかいねー」
「………」
適当に腰を下ろせば、部屋の入り口の壁に立つ双葉が顔を伏せた。
痩せた……というより窶(やつ)れていて、何処か疲れ切っていて……覇気がない。
「……!」
細い首筋。そこに残る、絞首痕。
視線を感じたのか……肩を内側に丸め、身を縮め、首元を掌で覆い隠す。
胸に鋭利なものが刺さって、抉られた気分だった。
こんな状態の双葉を……悠はどうして放っておけるんだ……
「……双葉。こっちおいで」
「………」
「取って食ったりしないからさ」
胡座をかいた内腿をポンポンと叩くと、双葉がチラリと此方に視線を向けた。
虚ろな瞳が揺れた後、再び視線を逸らされる。
「……ゆう、は……?」
掻き消えそうなほど、小さな声。
掠れていて、少し震えていた。
……ハァ、ハァ……
肩が大きく揺れる。
「……双葉?」
異変に気付いて腰を上げる。
膝から崩れ、前屈みになった双葉は、苦しそうに胸を押さえた。
「……ハァハァハァッ……ゅ、ぅ……ヒッ、ヒッ、」
双葉の体が痙攣を起こす。
駆け寄って肩に触れれば、双葉は酷く驚いた様に肩を跳ね上げた。
「双葉、落ち着いて。……ゆっくり。すぅ、はー、すぅー、はー、」
背中をトントンと呼吸のリズムに合わせて叩けば、吸うばかりだった双葉の呼吸が次第に整っていく。
「……ゅ、ぅ……悠……」
ぼたぽたぽた……
大粒の涙が幾つも溢れ落ち、フローリングに小さな水溜まりができる。
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