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第5話
気を失う様に俺の胸へと身を預けた双葉を抱き抱え、ベッドへと運ぶ。
無意識なのか……ベッドに下ろした後、双葉の手が俺の袖を掴んで引っ張った。
「……だい、き……」
「………」
瞼を閉じたまま、うわごとの様に俺の名を呟く。
しかし、双葉が求めているのが俺ではない事くらい………解っている。
「……よしよし」
ベッドサイドに座り、涙でグシャグシャになった顔を、手近にあったティッシュで綺麗に拭う。
……痩せたな。
良く眠れていないのか、目の下に隈も出来ている。
思わずキスしたくなるような色艶の良い唇も、今は見る影もなくカサカサとしている。
細い首には、痛々しく付いた……青黒い索状痕。
一体、何があったんだ──
悠は、何してんだよ……!
「……いい子いい子」
ケットを掛け、その痕を隠す。
そして子をあやすかのように、双葉の髪を優しく何度も撫でた。
……すぅ……
少しは安心したのか……小さな寝息を立てる。
しかし双葉の手は、逃すまいとしっかり俺の袖を握っていた。
「……急に頼んで、済まなかった」
深刻な面持ちの和也が、部屋に上がるなり頭を下げる。
双葉と同じ童顔。細身で低身長。
しかし、双葉とは違い男らしい顔つきで、可愛らしさは微塵も感じられない。
「……全然ですよ」
「驚いただろう……双葉の変わりように」
口角を緩く上げ柔やかに答える俺に、和也は眉根を寄せ、思い詰めた表情を見せる。
ローテーブルを挟んだ向こう側に正座をし、持っていたトートバッグから何やら派手な封筒を取り出した。
「……これ、君の所にも届いているよな」
「………」
スッと差し出されたそれを見れば、結婚式の招待状。
それを拾い上げ、裏を返して差出人を確認する。
「……!」
知らない女性の名前と共に記されていたのは……『鳴川悠』という文字。
『……双葉に、プロポーズ……した』
最後に会った日。
悠は確かにそう言っていた。
その悠が、突然心変わりなどする訳がない。
「………何これ。新手の悪戯?」
表情を表に出さず、テーブルに返す。
しかし和也は、目を伏せたまま苦い顔をした。
「悪質すぎて許せないが………まだそっちの方が良かったと思うよ」
「………」
「……式場に、確認したんだ。
……そしたら……」
そこまで口にして、和也が押し黙った。
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