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第6話

「………」 その和也も、以前見かけた時より少し(やつ)れたように見える。 家族には内緒にして、自分一人で抱え込んでいるのだろう…… 「……俺の所には来てないですよ。 悠からもそんな話、聞いてないし」 真面目に返すと、和也が驚いたように視線を上げた。 「そう……か」 しかしそれならば……、と今度は困惑した表情を浮かべる。 「……ん……、」 布擦れの音と共に、鼻から抜けるような双葉の声。 「……悠」 憂いを帯びながらも甘っとろく、仄かに色気すら感じる声に……不覚にもドキッとさせられる。 寝返りを打ったのだろうか。 双葉の手が、ベッドを背もたれにして座る俺の服を柔く摑んだ。 双葉の声に反応した和也が、ベッドへと視線を移す。 その目は………純粋に弟を想う、兄の目。 「………」 振り返って双葉の寝顔を覗く。 俺を、悠と勘違いしているのだろう。先程よりも穏やかな顔付きに変わっていた。 「和也さん。……時々俺も、双葉の様子を見に来ていいですか?」 ……双葉。 俺の目は今、お前にどう映って見える──? 仕事の合間、悠に電話を掛ける。 しかしコール音は一度も鳴らないまま。 メッセージを送ってみるものの、いずれも未読状態。 業務が終わり、閉店後の雑務をやり熟し、仮眠を取ってから悠の住むアパートへと向かう。 早朝の電車に揺られ、最寄り駅から歩いて数分。 双葉の住んでいるアパートよりかなり年季の入った、昭和の匂いがする建物。 繁華街、駅近……と条件がいいと、悠の給料ではここが限界なのだろう。 一階の真ん中の部屋をノックする。 壊れてなければいいがと、試しにインターフォンも押してみる。 「………」 ドアに耳を近付けてみる。が、人が居る気配はない。 建物の脇に回り、集合ポストを覗いてみる。 悠の部屋番号のポストには、ポスティングされた各社のチラシが無理矢理突っ込まれていた。 「………」 携帯を取り出し、悠にメッセージを送る。 〈生きてるなら、既読くらい付けなさい〉

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