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第7話

昼夜と、人で賑わう繁華街を朝陽を浴びながら歩く。 着込んできたつもりでも、やはり冷える。 悠の職場は、駅前通りを歩いて直ぐのセレクトショップ。 その店が開くまで、あと三時間。 通りを更に歩いてみるものの、暇を潰せそうな店どころか空いている店が見つからない。 諦めて引き返そうとした時。 ふわっ、と珈琲の香りがした。 気をつけないと通り過ぎてしまいそうな程、小さな喫茶店。 店内を覗けば、暖色系の照明が付いている。入り口には、モーニングの看板が。 何気なしに見つけた喫茶店。 これが運命を変えるなんて……今の俺には知る由もない。 「鳴川さんなら、退職されてます」 喫茶店で時間を潰した後、セレクトショップを訪ねる。 悠が好みそうなデザインの服が並び、その奥に店員らしき小柄の女性を見つけて声を掛けた所だ。 「……へぇー。いつ?」 「確か……一ヶ月くらい前……かな」 黒目を天井に向け、視線を彷徨わせる。 「その理由、知らない?」 「……はい。最近シフト合わないなーって思ってたら……って感じだったから……」 「……そう。ありがとう」 柔やかにそう告げ、店を出る。 結婚する奴が、退職なんてするか……? 胸がザワザワとざわめく。 上着のポケットに手を突っ込み、その足で双葉のアパートへと向かった。 双葉は相変わらずだった。 玄関のドアを開けてくれる所だけは、進歩したと思う。 「……おはよー」 「………」 最初から多くは望まない。 俺は俺らしく、双葉に接するだけ。 「双葉、眠い。……ベッド貸して」 伸びをした後、上着を脱いでベッドに潜る。 双葉は、否定も肯定も口にしない。 俺が何をしようが、双葉の世界には関係ないらしい。 「……双葉も一緒に寝る?」 「……」 軽い口調でそう言って、双葉に笑顔を向ける。 と、ふいっと双葉が顔を横に向けた。 ……意思を示した、のか? 単なる偶然で、思い違いかもしれない。 けどこんな些細な事が、今は嬉しかったりする。 ふわり、と双葉の匂いに包み込まれる。 双葉と添い寝してるみたいな気分だ。 疲れもあったのか……体が温まってくると意識がだんだんと遠退き……… 俺は、本当に眠ってしまった。

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