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第8話

──高校受験当日。 試験会場で隣に座ったのが、双葉だった。 緊張していたんだろう。 顔が強張っていて、指も震えていた。 確か、数学の試験が終わった時だったか。答案用紙が回収された後、双葉の様子がおかしい事に気付いた。 「……何かあった……?」 「え、えっと。……答案用紙に……受験番号書くの、忘れた、かも……」 受験番号未記入は、0点になるらしい。 そうなった場合、他科目が余程でないと合格は難しいだろう。 真っ青になった双葉にニッコリと笑顔を向け、俺は双葉に教える。 「直ぐに試験官捕まえて、その事実を話してきなさい、ね?」 「……え」 「今なら間に合うから、大丈夫」 澄んだ大きな瞳が更に見開かれ、こくんと頷いた。 それから慌てふためいて、今し方教室から出ていった試験官を追い掛け、双葉が廊下に飛び出す。 その動きというか姿が、何ともコミカルで。可愛くて。 思わず吹き出してしまった。 戻ってきた双葉は、先程とは打って変わって穏やかな表情をしていて。 少し照れながら、俺に御礼を言って頭を下げる姿は愛らしくて。 ……俺の、好きなタイプだった。 もし運命なら、きっとまた会えるだろう。 そんな気持ちで迎えた入学式。 双葉は、いた。 だけど双葉は、俺の事などすっかり忘れていて…… 名簿順で席の近かった悠と早々に仲良くなり、双葉の中で俺は『悠の幼馴染み』という位置づけとなっていた。 「………」 パチン、と瞼が上がる。 疲れがすっかり取れた所をみると、熟睡していたようだ。 日が少し傾いたのか、窓から差し込む光が夕焼け色に見える。 ……流石に寝過ぎたな。 まだボーッとする頭を押さえ、上体を起こす。 辺りを見回し双葉の姿を捜してみるが……見当たらない。 ベッドから降り、対面キッチンを覗いて見れば、コンロ前に双葉が立っていた。

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