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第11話
駅前通りにある、小さな喫茶店に入る。
この前見つけた所だ。
アンティーク調の店内。
ゆったりとした時間が流れる空間に、設置されたスピーカーから流れる懐メロ。
雰囲気は申し分ない。
注文した珈琲も相変わらず美味い。
カップをソーサーに戻した悠の母が、チラリと店内と窓の外を見た。
「……いい店ね」
「どうも」
口角を上げて微笑むと、女性はふぅっと溜め息をついた。
「悠の事だけれど」
いきなりの本題。
気にする事無くコーヒーカップの取っ手に指を絡める。
「……あの子、今、隔離病棟にいるのよ」
「……!」
予想外の言葉に動揺が隠せず、カップとソーサーがかち合ってしまう。
それを見た女性は、俺の様子に鋭い視線を向ける。
「同性を好きになること等、あってはならないと………うちの人がね」
眉間に皺を寄せた後、徐に瞬きをひとつするものの、鋭く尖ってしまった瞳までは解消されなかったようだ。
「単刀直入に言うわね。
私は悠をそこから出したいと思ってる。
でも、出たら悠は真っ先に恋人の元へ行くでしょうね。
……だからそれを、あなたにも阻止して欲しいのよ」
「………」
どうしてそれを、俺に言う……?
「これは単なるお願い。
私は………悠には、普通の幸せを味わって欲しいと思ってるの」
能面顔のままハッキリと言い切ると、カップを持ち上げ口元へと寄せる。
「………」
……ああ、成る程ね。
悠の為と口にしながら、自分達が成し遂げられなかったものを、息子にされてしまうのが癪に障った訳だ。
だから悠の婚約者を、祖父がしたように勝手に決めて、宛がって──
組んだ腕をテーブルに付き前屈みになって、下から覗き込む。
口角の片方を、少しだけ吊り上げて。
その瞬間……そのテーブルが小さく揺れ、コーヒーの水面が揺れ、湯気が揺れる。
「そういう事は、当人同士でよーく話し合ってよ。……おばさん」
ふわりと香る珈琲。
それに罪は無いけれど、すっかり飲む気は失せていた。
ピクリ、と悠の母の眉山が動く。
飄々とした表情でテーブル端に置かれた伝票に手を伸ばせば、俺よりも先に女性の手がスッと現れ、それをサッと奪う。
「………そうね。確かに貴方の言う通りだと思うわ」
「………」
「でも、それが叶わない事もあるのよ」
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