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第13話

ローテーブルに、湯気の立つコーヒー。 先程の出来事を彷彿しそうだけど、大丈夫。目の前にいるのは双葉だ。 清潔感のある白いカップ。 それを口にすれば、インスタントだろうけれどいい香りが鼻から抜ける。 後ろに片手を付き、室内をぐるりと見回す。 部屋の隅に並んだ二つのダンボール。 大きめのゴミ袋。 近くの床には、開いたままの卒業アルバム。 散らかってる……なんて言ってたけど、これで散らかってたら、悠の部屋はどうなるんだってレベル。 「……するの? 引っ越し」 「ううん。……少しね、整理しようかなって……」 「ふーん」 カップをテーブルに戻す。 コトンッ、と音がして直ぐ………双葉の目が僅かに泳いでいる事に気付く。 「………するんだ」 直ぐに伏せられた目。 音信不通の恋人に、ある日突然捨てられる悲しみ。 理由も解らず届いた、結婚式の招待状。 ……プロポーズを受けたのは、双葉の方なのに……… それを全て受け止めたんだ。 この小さな体で。 「ま、まだ……、決めては……なくて……」 「……いいんじゃない?」 テーブルに片肘を付く。 口の端を少し上げて見せれば、視線を上げた双葉が驚いたように俺を見る。 「………」 双葉も口角を少し上げるものの、それが本心ではないと直ぐに解る。 ……抱え込む癖に、顔に出やすいんだから。 ま、そこが双葉らしくて………好きになった理由のひとつなんだけど。 「荷物運ぶ時は、手伝いに来るね」 「……え……」 複雑な表情を浮かべる双葉。 多分、本人は笑顔の仮面でも付けてるつもりなんだろうな。 ……全然被れてないけど。 コーヒーの香る部屋の中を、もう一度ぐるりと見回す。 今度は両手を後ろに付いて。 「……」 本当は、双葉に何をしてやれば一番喜ぶのか、解ってる。 ……だけどそれは、ほぼほぼ実現不可能な事で。 ごめんな、双葉。 悠をここに、連れ戻せそうになくて。 「………うん」 双葉が小さく頷く。 その瞳が潤み、大粒の涙がポロッと零れ落ちる。 「………ありがと、大輝」 「……」 そんな顔するなよ。 ……また抱き締めたくなるだろ……

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