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第15話

靴を履く時から感じるのは、このままずっとここに居られたら……という事。 例え仕事が休みで双葉が許したとしても、夜には仕事を終えた和也が来る。 俺が居たら、出来る話も出来なくなりそうな気がしてならない。 「……んじゃ、またねー」 双葉に背を向けたまま片手を上げて玄関を出る。 気のない素振りをして見せて。 母目当ての中年男性が、カウンターに座ってカラオケを歌っている。 背を向けた母のボディラインを、イヤラシイ顔つきで舐めるように見ながら。 そのカラオケの音と音痴の声。 酔った客達の騒ぐ声。 ホステスの高笑い。 蠢く人の影。 店内をゆっくりと回る、ディスコボールライト。 その中を、黒服姿で忙しく駆け回る。 スナック店内は、活気付いてるというか、騒がしくて煩いというか。 「だーいきぃ。ミネ持ってきて!」 狭い店内の一角にあるボックス席から、中年ホステスの声が上がる。 「はーい!」 軽く答えながらカウンターへと向かう。 冷えたミネラルウォーターを、ママから受け取ってテーブルに向かえば、そこにいた常連客の女性三人組に捕まった。 「ねーねー、大輝くぅん」 「大輝くんの初恋相手って、どんな人ぉ?」 「聞きたい聞きたぁい!」 数ヶ月前、男性上司に連れられて来たこの若いOLは、その時俺を見掛けて気に入ったらしい。 男性向けの風俗店に彼女を連れてくる例はあるが、女性だけで来るなど今まで見た事も聞いた事もない。 それを母が許しているのかは解らないが、このホステスが『また遠慮なくいらっしゃいね』と見送っていたのを偶然見かけた事がある。 「……んー、俺の家庭教師」 「えぇ~~!!」 ヘラっと笑顔のまま答えれば、三人が同時に悲鳴に似た声を上げる。 彼女達の中で、家庭教師イコール美人で頭脳明晰プラス大学生、若い、という図式が瞬時に出来上がったようだ。 「どんな人?」 「何処が好きだったの?」 「名前は?」 「……マコト。笑顔も声も優しくて、綺麗な顔立ちにスラッとした美人だったな」 柔やかな表情でそう答えれば、彼女達の顔が次第に曇っていくのが手に取るように解った。

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