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第16話

「マコトっていうんだぁー!」 反応を返したのは、ホステス嬢。 三人組は、明らかに先程とは違うテンションで「……そうなんだぁ」と相槌を打つ。 「……そうねぇ。名前の通り誠実で、格好いい人よ」 いつから聞いていたのか。 カウンターから出た母が、通りすがりに話に混じる。 カウンターにいる中年とは別の、母狙いで通う中年男性からデュエットに誘われたらしい。 「……え?……えっ、待って。マコトって、愛と誠の、誠?」 「え、男……?」 「ゲ……ゲイなの?大輝くん……」 三人組は目を丸くし、顔を見合わせる。 その落ち着かない様子に、母が妖しげな流し目をしながら綺麗に口角を上げる。 「……ふふ。取って食われそうだから、あんた達をからかったんでしょ。……ね?」 その台詞に、三人組が顔を合わせたまま、一瞬だけ固まる。 「……えー、食わない食わない」 「逆に私達、大輝くんに食べられたい方なのよ。ママ」 「そうよ。だからこうして通いつめてるんじゃなーい」 その目が、雌豹のようにギラギラと輝く。 「で、大輝くんの休み、次はいつなの?」 「んー、それはママに聞いて」 「……大輝の好きになさい」 そう言って、母は待機中の中年男性の元へと向かった。 それに合わせるように、別テーブルのホステスから声が掛かった。 呼ばれて行けば、そのボックス席には若いホステス嬢一人しかいなかった。 最近入ったばかりなのもあるが、客とのトークは弾まない、要領は悪い、協調性もない……少々問題のあるホステス。 源氏名を、楓と言った。 「なーにー?」 歳は俺より三つ上。書類上では。 濃い化粧をして誤魔化してるけど、多分、年下。 「……淋しいから一緒にここにいて。客が戻るまででいーから」 「ん、いーよ」 客が座るシートとは別の、安っぽい丸椅子を引っ張って楓の斜向かいに座る。 「大輝も飲む?」 綺麗なグラスに氷を入れ。キープボトルの酒と水を注ぎ。 長いネイルが目立つ楓の指がマドラーを摘まんでひと混ぜし、俺の前にスッと差し出す。 「……あー、いや」 ……幾ら何でも、それはマズいでしょ。

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