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第17話

「……私と、一緒に飲んでよ」 拗ねたように唇を尖らせる彼女。 作ったばかりの水割りを引き戻しながら。 酔ってるとはいえ、楓が俺に絡むのは珍しい。 「……んじゃ、カルピスで」 ホステス嬢の機嫌を取るのも、仕事のひとつ。 ペットボトルのカルピスを受け取ると、楓のグラスと乾杯してから喉を鳴らす。 閉店まで動き回る身として、喉の渇きを潤しつつ手っ取り早く高カロリーを摂取できるのは、カルピスだけ。 「ねー。大輝って大概カルピス飲んでるよね。何で?……そんなに好き?」 上目遣いをした楓が、俺に身を寄せてくる。 「んー、好きだよ」 柔和な笑顔をして見せれば、楓の大きな瞳が俺の顔をじっと見た。 「……」 「カルピスってさ、アレみたいじゃん」 「……アレ?」 「舌に残る白くてトロッとしたやつ。食感が男のアレに」 俺がそう言った途端、楓が俺からフィッと視線を逸らす。 ペットボトルに口を付け、ゴクゴクと飲みながら楓を横目で見れば、楓が俺の口から喉元辺りをチラリと覗き込んでいた。 「……ん。飲んでみる?」 「え、ムリ。……味は、好きだけどさ……」 四分の一残ったカルピスを楓に差し出せば、楓は視線を横にずらし、唇を尖らせた。 「じゃあ今度、好きな人のだと思って飲んでみてよ。 ……ここにいた客とか」 からかうように片側の口角を上げ目を細めて言えば、「……バカ。もう、大輝いらない!」と追い出された。 「………」 席を立って直ぐ、電話を終えたらしいスーツ姿の若い客が戻ってくる。 楓の隣に座り、直ぐさまグラスを傾けるのが見えた。 それは、先程俺にと用意し楓が口を付けた、水割り。 口を尖らせながら、「これ、楓のだよ!」とふて腐れる楓。 その顔はすっかり晴れ、最初に見た寂しそうな表情など見る影もなかった。 裏口から抜ける。 騒がしい空間から解放されて大きく伸びをすれば、薄雲にかかった満月が、今にも泣き出しそうな顔で俺を見下ろしていた。

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