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第18話

* 「………やっぱり、変かな?」 少し照れながら、双葉が首元に掛かる髪の毛先に触れる。 そこにはもう、痛々しい索状痕はない。 「いいんじゃない? 双葉らしくて」 柔やかに答えれば、双葉が嬉しそうに少し首を傾けた。 イベント準備、イベント……と店が忙しくなり、気付けばあれから十日が過ぎていた。 記憶の中にいる双葉は、俺が放った一言のせいで複雑な表情を浮かべていたが、今目の前にいる双葉は、少しだけ表情が明るくなっていた。 「……あのね。和兄が気分転換にって。 和兄の美容院に連れてって貰ったの」 和也の職業は、美容師。 入ったばかりの見習いで、店長からカットの許可はまだ下りていないらしい。 「それもあって、店長の透さんに切って貰ったんだけど。 ……本当は和兄、僕を元気づける為に……透さんを引き合わせてくれたんだと思う」 今日の双葉は、よく喋る。 不安を隠す為に……なんて器用な事は出来ない質だから。その点は安心してる。 余程楽しかったんだろうな。 双葉の話を聞きながら、出されたコーヒーに手を付ける。 「……あのね。透さん……ゲイ、なの」 ドクンッ。 心臓が大きく跳ね上がる。 「ゲイ同士なら、話せる事もあるし気も合うんじゃないかって。 ……和兄、多分そう思ったのかなって」 「……ふーん」 素っ気なく答えながらも、ドクドクと心臓が早鐘を打つ。 「透さん、明るくて楽しい人で。 透さんの話を聞いてるうちに。 気付いたら………悠の事、話してて」 『もっと視野を広げなさいって事』 あの時放った矢が、自分に跳ね返ってくる。 「気が楽になった。って言ったら嘘になるけど。 ……でも透さんに会って、話せて良かったなって思ってる」 少し俯いた双葉が、首元にかかる毛先に触れる。 「………」 コトッ、とコーヒーカップをテーブルに戻す。

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