5 / 13

第5話

さすがに2名分の楽器の荷物運びが、仕事の後の身体にはこたえたようで、風呂に入ったあとすぐにベッドへと直行した。 ソファーはでかいし、そこで寝ろと言う言葉にも斎川は反論しなかった。 「ねえ、ミカちゃん?寝てるの?」 耳元で、斎川の少し掠れたような声がしたような気がしたが、身体がどろのように重くて身動きができない。 「じゃあ、いいかな。もう少しゆっくり寝ていてね」 唇から何か子供の時に飲んだ風邪薬のような、甘ったるいシロップが少量づつ流れ混んできて、重たい身体が浮遊するように楽になる。 「ミカちゃんは寝てるだけで、いいからね」 脳に染み込むような艶やかな声が聞こえていて、俺は夢うつつの中、声の主の言葉に頷いていた。 いつもの時間に激しく鳴るスマホのアラームを止めて、半身をダラダラと起こす。 早めに寝たからか、身体の疲れはとれている。 斎川をソファーに残して寝室で寝てしまったが、初対面のヤツを残してよかったものか。 まあ、盗まれて困るものはないんだが。 太ももの付け根が少しだるい気もしたが、荷物運びの比重のせいかもしれない。 リビングのドアを開くと、斎川は渡した上掛けをかけて大人しく寝ている。 朝飯どうするかな。 いつもは、コンビニで飯を買ってそのまま職場にいくのだが、コイツの分も必要だな。 二度手間になるなと、ため息をついて俺はコンビニへと向かった。 「ミカちゃん、おはよ」 寝ぼけ眼を向けて斎川は起き上がると、差し出したおにぎりとパンを見て、手料理じゃないんだと呟く。 昨日さんざん料理はできねえって言ったのは覚えてないようだ。 「オマエの好き嫌いはしらねえし、昼飯分も適当に買ったんだけど」 「あー、ありがと。オマエじゃなくて、タカネだよ。じゃあ夕飯は用意するよ。キッチン使っていいよね」 昨日はない笑顔を向けられて、俺はすこしたじろいで視線を逸らした。 イケメンの笑顔は凶器だ。 「好きにしろ。あんまり家探しするなよ。金目のものは無いからな」 そろそろ仕事に行かないとまずい時間である。 「それは分かってる。ミカちゃん、お金なさそうだからな」 「殴るぞ……」 俺は作業着に着替えると、そのまま斎川を残して部屋を出た。

ともだちにシェアしよう!