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第6話
『そんで、カズが折れて泊めたのは分かったけど、一人で残してきて大丈夫?』
仕事終わりに要から電話がかかってきたが、家探しされて困るものはなにもない。
財産は、楽器くらいのものだが、まあ売ったとしてもそんなに価値のあるものでもない。
「サイコパスじゃなきゃ、問題ねえし。まあ、へそ曲げちまったのも俺の責任だしな」
そう告げると、要はすぐに謝れば済んだ話だけどとかもそもそ言って、次の練習の日を確認してから電話を切った。
自分が連れてきた手前、斎川のことが気になっているのだろうな。
俺が短気を起こして、追い出す可能性があったし。
まあ当然の心配だろうと思い、漸く帰りついたアパートの窓に電気がついているのを不思議な気分で見上げた。
今日はストリートしてないのかと思いながら、鉄の階段をあがって、ドアを開く。
「タダイマ」
チャランチャランと聴いたことのあるリフが耳に入る。
バラード曲。
忘れようもない、俺が中学の時に初めて作った曲だ。
そんなには張ってない甘い声が、耳に流れ込む。適当につけた歌詞だろうか、柔らかい感じの言葉を並べている。
「…………」
リビングに入っていくと、散らかった部屋に俺がしまっていた楽譜が散らばっている。
ちらと俺の気配に気づいたのか、顔をあげて斎川は俺を見上げ、唄を止めた。
「……あ、ミカちゃん。オカエリ」
「家探しするなって……」
「んー、この曲好きだなあ。寂しいけど意思がある、歌詞ないの?」
「歌詞はない……オマエなあ……」
「ミカちゃん、おれ、夕飯作ったから、シャワー浴びてきて。腹減ったよ!」
斎川は、ギターを置くとキッチンを指さして、俺に命令をする。
言うことを聞く約束だったな。
釈然としないまま、俺は浴室へと向かった。
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