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第7話

オカエリ、ねえ。 シャワーを浴びながら暫くそんな言葉は聞いたことがなかったなと考える。 中学の時には荒れていて喧嘩三昧な日常で、家には夜中にしか帰らなかった。高校に行くと同時に追い出されて一人暮らしを始めたこともあり、家に寄り付きもしなかった。 別に寂しいなんて感じたことはなかったが、悪くはないな。 髪を洗ってコンディショナーとトリートメントで整える。 長く伸ばすと毛先まで栄養が行き届かなくて立てる時にブチブチ切れちまうようになる。 風呂から上がって、鏡を見ると首筋に見なれない赤い痕がある。 虫にでも刺されたのか。 それにしても痒くはねえな。 あとでムヒでも塗っておくか。 バスタオルで体を軽く拭って、スエットに着替えるとキッチンテーブルの上には、家庭料理のような夕飯が並んでいる。 「早いね。結構カラス派」 「あ?カラスって何だ」 「カラスの行水っていわないかな。10分も経ってないよ」 斎川は大丈夫なのと言わんばかりの顔で俺を見返す。 「ちゃんと汗流してトリートメントしてるから問題ねえよ。ダラダラ入ってるほど暇じゃねえしな」 「トリートメントね。長くすると大事だよね。オレも気を使ってるよ」 牛肉とじゃがいもが入っているのは、肉じゃがだろうか。彩りにいんげんが入っていて綺麗に盛り付けられている。 茹でたほうれん草の上には、ごまと鰹節がかけられていて、きゅうりは浅漬けにされて置いてある。 田舎の家庭料理そのものだろう。 「……ふうん。料理するの慣れてるのか」 「ばあちゃんと二人暮らしだったから。一緒に作ってた。身体にはいいと思うけど」 綺麗な顔に笑顔をたたえて告げられ、ばあさんを残して東京に来たのかと聞こうとしたがやめた。 斎川は一人だけ残してくるような奴じゃないな。まだ、こいつのことを良く知らないのに、それだけは分かるような気がした。 「自炊するもの全くないから、びっくりしたよ。ミカちゃん、絶対、いつか身体壊すよ」 買った覚えもない碗にご飯をよそってもってくると、汁を入れた椀も目の前に置いた。 「そんなヤワじゃねえよ」 「そとみの話じゃなくてね。あ……ビール飲む?」 至れり尽くせりの斎川の様に、俺は何故か素直に頷いていた。

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