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※第8話

身体が重い、のに、気持ちが良くて瞼を開けたくない。 いつの間に、寝てしまったのか。 思い出そうと脳みそを動かそうとするのに、思考回路が停止してしまっている。 痺れるような感覚が背筋から這い上がって、ドロドロにベッドと一体化してしまったかのようである。 身体の奥が熱をもっていて、風邪でもひいたのかもしれない。まったく力が出ないのだ。 耳元で鼻歌が聞こえる。耳に馴染むメロディで、斎川がさっき歌っていた俺の曲だということだけはわかった。 「……まだ、朝には早いよ。ゆっくり寝ていていいからね」 俺の身動ぎに気がついたのか、斎川の柔らかく艶やかな声が耳に響く。俺の唇からは、何故か低い喘ぎが溢れて仕方がない。 下半身がじくじくと疼いているのと、斎川が俺の身体をあやす様に撫で回している感覚だけは分かるのに、まるで金縛りか何かのように指を動かすことすらできない。 これは夢、なのか。 「もう指、三本も中に入ってるし。気持ちいいでしょ。ミカちゃんの体は覚えが良くて、とっても素直」 何を言われているのか分からなくて、頭の中に言葉は入ってこない。 鼻歌の合間に、ぐちゃぐちゃと湿った音が響く。 ジンジンと痺れる感覚に身を任せて、俺は絶頂に達したのか腰を掲げて身を硬直させていた。 スマホのアラームで目を覚ますと、真っ暗ないつもと変わらない寝室だった。 慌てて体をまさぐるが、スエットには乱れもなく夢精もしていないようだ。 変な夢だ。 なんとなくリアルな気がしたのに、斎川も近くにはいないし、俺は普通にベッドに転がっているだけだった。 いつの間に寝ちまったのだろうか。 斎川の飯を食っていたのは、覚えているがその後の記憶がまるでない。 いつ寝室に来たのかすら、すっぽりと抜け落ちている。 「まあ、仕事にいかないとな」 疲れがたまってしまってたのかもしれないな。 昨日は曲を作りたかったのだが、明日にすりゃいいか。 起き上がって寝室のドアをあけると、たまごが焼ける甘い匂いが漂ってくる。 「あ、ミカちゃん。おはよう。朝ごはん、フレンチトーストでいいかな」 既に斎川は起きていたのか、朝飯の用意をしてくれている。 「おはよう。悪いな。何でもいいぜ」 何でも言うことを聞くといったのは俺なのに、逆にいたれりつくせりだよなあと思いながら、ダイニングの椅子に座ると、コーヒの入ったカップを目の前に置かれた。 「ミカちゃん、夕飯食べおわった後にソファーで寝ちゃうから、運ぶの大変だった。疲れてたのかな」 斎川は笑いながら、フライパンで焼いていたパンを皿に盛り付けていく。 「あー。そうだったのか。重いのにすまねえ。新人が入って、色々気をつかったのかもな」 「そうなんだ。気持ちよさそうに寝てたから、起こさないようにしたけど……」 斎川の艶のある声に、ビクッと身体が震えて下半身が熱をもってくる。 な、なんだ。 俺は慌てて熱いコーヒーを一気に喉に流し込んだ。 「気を遣わないで、起こしていいぞ。案外優しいんだな」 「オレは優しい男だよ。はい、食べて。今日も仕事頑張ってね」 にこりと斎川が微笑み、俺の目の前にオシャレな盛り付けをしたフレンチトーストとスクラッチエッグを差し出した。

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