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心寄せる人 10
着信は実家の母親からだった。
一瞬瑞樹からかと思ったが違った。
「宗吾、今どこ?」
「母さんどうした?もしかして芽生に何かあったのか」
あの子は楽しい予定の前日には興奮してよく熱を出すから、もしかしてと思った。
「違うのよ。早くに寝かしつけたのに怖い夢を見たらしくて、さっき泣いて起きたのよ。それからあなたのことをずっと泣きじゃくって呼んでいるのよ……困ったわ」
「分かった。今日はもう仕事も終わったし今から一度家に戻って車で迎えに行くよ」
「そうねぇ……そうした方がいいかも。でもあなた、ちゃんと芽生のお父さんしているのね。ホッとしたわ」
怖い夢か。
まだ幼い芽生から母親を奪ってしまったのは俺のせいだ。幼い芽生には何の責任もないのに、玲子から軽蔑され、バイセクシャルの俺の息子だから引き取りたくないと言われた時はショックだった。
まだ瑞樹のことが少し心残りだったが、泣いて俺を待つ息子を迎えに行くのが先だ。
****
「芽生!」
「パパー」
実家のドアを開けるとパジャマ姿の息子が勢いよく駆け寄って来た。荷物を置いてしゃがみ込んで両手を広げてやると、そのまま俺の胸に飛び込んできた。
まだ四歳の息子の身体は小さく、泣き顔を見るのは辛い。
まだ母親が恋しい年頃なんだと実感し、罪悪感が沸いてしまう。
そのまま抱き上げてやると、泣き顔が途端にワクワクした笑顔に変わる。
「わぁ高い!パパーあのねメイ……すごく怖い夢見て……そんでね……パパのお顔見たくなっちゃって」
「そうかそうか……どんな夢だった?」
「うん……パパが死んじゃうの。僕一人になっちゃって寂しくて怖くてエーンエーン泣いちゃった」
「そんな、ちゃんとパパはここにいるだろう」
「うん!」
「もう家に帰るか」
「うん、ボクの家に戻りたいなぁ、おばーちゃん家も楽しいけど……今日は……」
そんなやりとりを、母は優しい眼差しで見守ってくれていた。
母には玲子と別れる時に、離婚の本当の理由を正直に話した。
逃げることなく俺の話を真摯に受け止めてくれたので、その時初めて理解のある人だと思った。それからずっと心強い存在だ。男親では足りない部分の芽生のサポートも良くしてくれ、本当に助かっている。
「いいのよ。芽生、明日はパパと遊園地でしょ。今日はもう帰った方がいいわ。その方が朝早く行けるでしょ」
「ありがとう。母さん」
「おばーちゃん、また来週泊まりにくるね」
「待っているわ」
****
帰りの車の中でさっき芽生が言ったことが、引っかかっていた。
ひとりは寂しい。
ひとりは怖い。
瑞樹、君は今何をしている?
一人で怖くないか。
一人で寂しくないか。
「パパ、何考えているの?もしかして……あのお兄ちゃんのこと?」
「ん?なんだ。知ってたのか」
「だってパパってば最近鼻の下伸ばしてるじゃん。あのお兄ちゃんのこと話す時はいつも!クスクスッ」
「なんだ? そんな言葉どこで覚えたんだか。それに泣いた烏がもう笑ったな」
「おばーちゃんに教えてもらったよ、えへへ」
「全く……母さんは。そうだ明日の遊園地あのお兄ちゃんも一緒でいいかな」
「わぁ! もちろんいいよ。あのお兄ちゃんは優しくて大好きだよ!」
「よかった。ありがとうな。なぁ……あのお兄ちゃんも今日とても怖い夢を見てしまったんだ。今頃……ひとりで泣いているかもしれなくて」
「えっそうなの? あのお兄ちゃんひとりぼっちで暮らしているの?」
「あぁ……」
芽生は少し考えているようだった。それから……
「それは寂しいね。ボクにはパパがいるのに。そうだ!今日はボクの家に来たらいいよ。ボクが一緒に眠ってあげるから」
「成程! それはいいかもしれないな。芽生、そうしてもらえるか」
「もちろんだよ!」
「じゃあ寄り道しよう、お兄ちゃんの家に」
「わーい!深夜のデートだね」
「またそんな言葉をいつの間に……」
「おばあちゃんからだよ」
「はぁ……」
息子がとんでもない耳年増になりそうで、心配だ。
躊躇しないで……瑞樹の所に行こう!
恋愛に少し憶病になっている俺だが、迷い過ぎても遠慮し過ぎてもダメだ。
今というタイミングで、瑞樹が俺を必要としていると思うから。
だから今の俺らしい行動を取ればいい。
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