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心寄せる人 11

「滝沢さん……」  声に出すと、余計に会いたい気持ちが募ってしまった。 「うっ……」  悲しい気持ちに押し潰されそうになっていると、見つめていたスマホに着信があった。  表示は実家の母からだった。こんなタイミングで、かけてくるなんて……でも、出ないわけにはいかない。 「……もしもし……母さん」 「瑞樹どうしたの?最近全然連絡がないから、心配していたのよ」 「あっ……ごめん」  確かにこの一カ月は一馬と別れる段取りで頭が一杯で、全く連絡をしていなかったことに気が付いた。 「それで、元気にやっているの?」 「……うん」 「ねぇお盆に久しぶりにこっちに帰ってきたらどう?何だか酷く疲れた声よ」 「そうかな?最近仕事が忙しかったからだよ。心配かけてごめん」 「いいのよ。あなたが元気なら」 「うん……あの……もう寝るところなんだ。今日は疲れているから。ごめん、もう切るね。」 「あっ……瑞樹っ」  もうこれ以上話せなかった。  これ以上話したら、泣いてしまうから。  母には余計な心配かけたくないから。  ずっと男と暮らしていたことも、その男と別れたことも、今日男なのに男に襲われそうになったことも……何一つ話せることがなくて、申し訳なくて泣けてくる。  函館から東京の大学に行かせてもらい、こっちで就職したきり、ろくに帰省もしていない僕だから。  せめて元気にやっていると思っていて欲しい。  あぁ……でも今夜の僕はダメだ。これ以上強がれない。  ひとりで抱えすぎるものが多くて、今の僕が唯一頼れる人……滝沢さんの声を聴きたくて溜まらなくなってしまった。  電話をしてもいいのだろうか。  甘えてしまってもいいのだろうか。  彼の優しさに。  思い切って滝沢さんの番号にかけてみると、何故か同じタイミングで着信音が玄関の方から聞こえた。 「瑞樹か。どうした?また何かあったか」  声が二重に聞こえる。  え……なんで?さっき帰ったはずじゃ……  玄関先に人の気配を感じるのと同時に、インターホンが鳴った。 「瑞樹、俺だ。やっぱり心配で来てしまった。ドアを開けてもらえるか」  びっくりした。  傍にいて欲しいと願った人がすぐそこに来ていたなんて。  それでもこの期に及んで、こんな風に簡単に滝沢さんに甘えていいのか戸惑っていると、可愛い声がした。 「おにいちゃん、原っぱで会ったボクだよ。お兄ちゃんもこわい夢みたんだって?だからおむかえにきたよ。きょうはボクがいっしょにねてあげる」  涙腺が緩むよ。  そんな可愛いお誘いを受けたら……  滝沢さんと芽生くんの顔が見たい。  だから玄関のドアを開けた。 「あぁやっぱり泣いていたんだね。瑞樹は」 「あっ……」  滝沢さんの顔を見たらほっとして、止まっていた涙がまたはらりと流れ出てしまった。 「お兄ちゃん、今日はボクの家に行こう」 「えっ……でも」 「瑞樹、一緒に俺の家に行こう。今日ここで一人で過ごすのは酷だろう。さぁ車で来ているんだ。明日の服だけ持てばいいよ」 「えっ」  あとはもう勢いだった。気が付けば明日遊園地に行く洋服を詰め込んだバッグを抱えて、僕は車に乗り込んでいた。  僕は……部屋着といってもほぼパジャマ姿のままだ。  こんな姿を彼に見せるのが少し恥ずかしいと思った。  礼服かスーツ姿しか見せていなかったのに。  でも滝沢さんのこういう少し強引な所が結構好きだ。強く引っ張ってもらえることに、身を委ねたくなってしまう。  車の揺れが心地良く、ほっとしたせいか、何だかうとうとと眠くなってしまった。    

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