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心寄せる人 12
「瑞樹、着いたよ。起きて」
余程、安心したのだろうか。瑞樹はいつの間にか、助手席で眠ってしまっていた。
それにしても……さっきは嬉しかったぞ。俺が瑞樹の玄関に駆けつける前に、瑞樹から俺に電話をかけてくれた。そのことに感動してしまった。今日は瑞樹からの初めてのアクションばかりで興奮してしまう。
好きな人に振り向いてもらえることの嬉しさを、この歳になってどうやら俺は初めて知ったようだ。
「パパーお兄ちゃん眠っちゃったの?」
「そうみたいだ。怖い夢から解き放たれて……ようやく眠れたんだろうな」
「よかったね。じゃあパパに、とっておきのいいこと教えてあげるよ」
芽生の方は実家で軽く眠ったせいか、すっかり目覚めて生き生きしているな。この、いつもと違う状況を楽しんでいるようだった。
「何だい?パパに教えてくれ」
「あのね!」
芽生は後部座席のチャイルドシートからピョンっと降りて近寄って来た。
「あのね、ほらっ絵本みたいにさ、こうやるの!」
持っていた羊のぬいぐるみを、芽生は大事そうに横抱きにした。男の子なのに、ふわふわのぬいぐるみ好きなのは相変わらずだな。
それにしても……いい案じゃないか!流石我が息子だ。
「じゃあ、芽生が瑞樹の荷物と鍵を持ってくれるか」
「うん! ボクにまかせて! もう何でもできるもん!」
「ははっ、頼もしいな」
念のためもう一度瑞樹に呼び掛けてみる。(起きなくていいが……)
「瑞樹……起きて。着いたよ」
「……」
やはり返事はない。 ならば「いいよな」と勝手に心の奥が躍り出す。シートベルトを外し、そっと瑞樹のすらっとした足に手を差し入れぐっと持ち上げた。
やっぱり軽いな。スーツを着ていても分かる華奢な体躯だった。
こんなんじゃ、あの四宮ってバカでかい奴に羽交い絞めにされたら抵抗できなかっただろう。瑞樹は何も語らなかったが、電話越しに漏れた苦痛の声を考えれば、絶対どこかに触られたはずだ。どこか痛めつけられたのではないか。瑞樹の躰のすべてを確かめる権利がないので推測なのが、もどかしい。
それにしても……こんなに本当は傷ついていた癖に君は馬鹿だ。あんな奴、証拠も揃っていたし庇う事なんてないのに。俺だったら、とっとと警察に電話して……とことん証拠を暴露して二度と起き上がれないように潰してやるところだった。
でも……どうしてだろうな?俺とは真逆な判断をする瑞樹のことを尊重したくなった。
最後に立ち直る根っこを残してやりたいだなんて、俺にはない発想だった。でも瑞樹の考えなら素直に受け入れられた。
それは瑞樹のことが愛おしいから、大切だからなのか……
それにしても瑞樹、参ったな。
シャワーを浴びたばかりだったのか、躰中からいい匂いがしてクラクラするな。まだ乾ききっていない髪は濡れると癖が増すようで軽くウエーブしていて可愛いな。腰もほっそりとして、でも骨ばってもいなくて抱き心地が良い。いつものスーツ姿もストイックな印象でいいが、こういう躰の線がでる緩めの服もいいな。
「パパー!かっこいいよ。まるでおひめさまを抱っこしているみたい!」
煩悩に走りだしていたが……芽生の無邪気な声に慌てて、襟を正した。
「おう!そうか。あとで芽生も抱っこしてやるからな」
「うん!でもまずはお姫様が先でいいよ。あっと……おにいちゃんは男の人だけど。僕も羊のメイを抱っこしてるから忙しいよ」
「ははっ、そうみたいだな」
嬉し恥ずかし明るい笑顔を浮かべる芽生のことを見つめていると、自然と頬が緩む。
可愛い息子だ。すくすく優しく明るく成長してくれている。
そのことが嬉しく、そして今、憧れの瑞樹をこの腕に抱いていることが嬉しくて二重の喜びをギュッと噛み締めていた。
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