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心寄せる人 13

「パパー!ボクね、ちゃんとおうちのカギあけられたよ!」 「おう!芽生すごいぞ、ありがとう」  いつまでも少しでも長い時間……こうやって抱いていたい瑞樹の躰だった。起こさないように細心の注意を払って、そっと靴を脱がして玄関から廊下、そしてリビングへと移動した。 「パパ、電気つけるね!」 「あっ」  パチッとリビングの照明が明るく灯ったのと同時に、瑞樹の目を覚めてしまった。 「えっ……あっ」  すぐに状況が呑み込めないようで、目を大きく見開いてポカンとしている。何か言おうとしているが驚きすぎて声が出ないようだ。そういう半開きの唇も色っぽいな。俺の胸元で至近距離でそんな可愛い表情をするなんて、とにかく激しく萌える。 「あっすみません!えっと……わっ!」  俺に横抱きされていることに気付いたらしく、ボンっと音がする勢いで顔を赤く染め上げた。  知り合ってから……瑞樹の泣き顔は散々見てきた。  泣き顔すらも美しいと思ったが、彼の背負った悲しみや味わった屈辱を思えば……切な過ぎて胸が痛くなるばかりだった。  でもこれは違う。こんな風に恥ずかしがる表情は、実にいいな。  出来ればもっといろんな表情が見たい。涙が出る程、笑わせてみたいし……いつかは俺で感じて喘ぎ啼いて欲しいとも。    あぁダメだ。すぐにそっち方面に飛ぶ自分の節操なさを呪いたくなる。 「あのっもう降ろしてください」 「ダメだ。大人しくしていること」 「でも!」  恥ずかしそうにもぞもぞと足を動かし降りようとジェスチャーで訴える瑞樹を、もう一度しっかりと抱え直してやると、ますます恥ずかしそうな様子で目元を赤く染めた。  いい表情に煽られそうになる。 「うっ……でも……」 「そうだよ~おにいちゃんは今はおひめさまなんだから、じーっとしてて」  よしよし芽生、援護してくれるのか。いいぞ! 「おっお姫様って……僕のこと?」 「さぁパパこっちこっち。ボクのベッドでおにいちゃんをおろしてね」 「え?芽生のベッドじゃ狭いだろう?」 「いいの!だってボクはまだ小さいからだいじょうぶさ!」  うわっ息子よ……そう来るのか。  瑞樹と一緒のベッドで眠れるなんて役得だぞ。  っと……息子に嫉妬して、どうするんだ。 「おにいちゃん、いい?」 「あっうん。メイくんがよければ」  瑞樹も心なしか安堵した表情を浮かべていた。しょうがないな。息子にも瑞樹にも弱い俺は、結局そのまま息子のベッドに優しく瑞樹を降ろしてやった。  宝物のように労わるように──そっと。  その瞬間ベッドに仰向けになった瑞樹と、至近距離で目があった。この距離と角度は来るな。ドキッとしたのはお互い様だったのか、瑞樹も俺の視線をしっかりと受け止めてくれた。  目を逸らさずに……だから俺も彼の澄んだ目をじっと見つめ続けた。 「たっ滝沢さん……あの」 「何だ?」 「今日は……ここに連れて来てくれて、ありがとうございます」 「うん、俺は役に立っているか」 「凄く心強いです」  真っすぐに俺を見つめ上げる瑞樹の視線が心地良いな。もうこのまま押し倒したいと切に願ってしまう程に。  瑞樹は凛とした所も素直な所も本当に魅力的で、彼を知れば知る程、恋が深まる。 「パパぁ~ボク、もうねむい~」 「おぉそうだな。もう寝ないと……明日は朝早いしな」 「うん……もうおやすみ、パパ」  嬉しそうに羊のメイを抱っこして自分のベッドに潜りこむ芽生の姿に、結局目尻が下がってしまう。 「わーい。今日はお兄ちゃんといっしょだ!」  まったく子供部屋でなんていつもはひとりで怖いといって眠らない癖に、瑞樹がいれば大丈夫なのか。そのまま瑞樹に抱きつく芽生。 「そうだよ。一緒に寝よう。芽生くん」  瑞樹も芽生のことが可愛いらしく、ふわっと柔らかい笑顔で迎え入れてくれた。芽生と瑞樹は、俺の宝物だとしみじみと思える光景だ。  ベッドに天使がいるような錯覚を覚える。  二人の仲睦まじい様子に心が癒される。  ゆっくり……ゆっくりいこう。  この二人のペースに合わせていこう。 「お休み芽生……お休み瑞樹」  非常に名残惜しいが、子供部屋の電気を静かに消した。  明日という希望が降りてくるように──  

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