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深まる秋・深まる恋 4
「じゃあ新郎の衣装でいいので、お願いします」
宗吾さんがテキパキと手続きを始めたので、呆気に取られてしまった。
「えっ……えっと、宗吾さん? 」
「ほらほら店員さんが呼んでいるぞ。さぁ行って来い」
ドンっと宗吾さんに背中を押され、衣装の並んでいる部屋に押し込められてしまった。
何で……こんな展開に?
「こんにちは~着付け担当の者です。あらまぁ~随分と可愛い人だこと。あの男の子のお兄さんかしら?」
「えっ? いや、そうではなくて」
「あら? では、どういうご関係ですか」
中年の店員さんにあれこれ聞かれて何と答えたらいいのか分からなくて、しどろもどろだ。
「あーなるほど。そういうことですか、了解了解。大丈夫ですよ。この写真館はプライベート重視なのでご安心下さい、撮影は別室で行いますね」
何が了解なのか、何が大丈夫なのか……分からないので、思わず顔が引きつってしまう。
「お連れのお客様はダークなお色目のスーツだったわよね。それならばあなたは薄い色がいいかも。そうだわ、白にしましょう」
「……しっ……白のタキシードなんて……あるんですか」
「ありますとも!今はお婿さんの白いタキシードが流行っているんですよ」
「……はぁ」
「結婚式での『白』は、主役であるお二人だけに身に纏うことが許された特別な色ですものね。お嫁さんのウエディングドレスに合わせてタキシードも白で合わせると、とても素敵ですよ」
いや……そうではないような気がするが有無を言わせない雰囲気だったので、結局僕は白いタキシードを着ることになってしまった。
「お客様は細身で小柄なので、オーソドックなタイプよりも身体に馴染みやすい短い丈のジャケットタイプにしましょう。これはスーツにも似ているので抵抗は少ないですよ」
「はぁ……」
もう照れくさくて言われるがままに、タキシードを着て蝶ネクタイをつけてもらった。
「わぁ素敵!!さぁさぁさっきから扉の外で彼がお待ちかねですよ」
って……それ、何だかお嫁さんのウェディングドレス姿を見たくて待っている新郎の元に案内されるようで、猛烈に照れくさい!
「瑞樹!」
宗吾さんは僕を見るなり、手に持っていたスマホを床にポトリと落とした。
ひーその反応やめて下さいよ。変な汗がダラダラ出てしまう。
「か……可愛すぎだろ。白とか……もう反則だ」
「そっ宗吾さん、しっ静かにして下さい! 変に思われます!」
「あぁ瑞樹は可愛いな。それに、もうここでは俺たちの関係、バレバレだと思うがな」
「え……」
宗吾さんはむしろこの状況を楽しんでいるようだった。
「まぁ瑞樹くん。とてもキュートよ。そうやって宗吾の横に並ぶと……うふふ」
うふふっ……て? 宗吾さんのお母さんの一言に、ますます青ざめてしまう。そんな中で場を和ませてくれるのはやはり芽生くんだった。
「お兄ちゃんーすごく格好いいよ。まるで『白バラの騎士』みたいだ!」
『白薔薇の騎士』って……うーん、やはりアニメとかの見過ぎではと思ったが、格好いいという言葉だけは、しっかり頭の中でリピートされた。
こんな衣装は一生着ることがないと思っていたのに、人生というものは時に思い切った悪戯をするものだな。
「ではそろそろ記念撮影をしますので、お集まりください」
芽生くんと宗吾さんのお母さんが中央の椅子に座り、僕と宗吾さんが囲むように横に立った。家族団欒の写真のような暖かな空気に、もう酔ってしまいそうだ。
「はい笑って~撮りますよ」
「じゃあもう一枚」
何枚か続けて写真を撮った。まるで夢の中にいるような気持ちになってしまった。
「はい、これで終わりです。お着替えされてOKです」
「カメラマンのお姉ちゃん~」
更衣室に戻ろうと思ったら、羽織袴姿の芽生くんがちょこちょことカメラマンの所に行って、 耳元で何か楽しそうに話し出した。
どうしたのかな? 宗吾さんと不思議に思って顔を見合わせると、カメラマンが近づいてきた。
「あの~今、息子さんからお願いをされまして、お二人のツーショットを撮ってもいいですか」
「えっ!」
「おぉ! 流石わが息子、気が利くな」
「お兄ちゃん、パパとラブラブの撮ってね~」
「フフフ、宗吾良かったわね」
「ラブラブって……」
宗吾さんのお母さんと芽生くんは優しい眼差しで見守ってくれる中、僕と宗吾さんは写真館の白い壁を背景に、並んで写真を撮ることになった。
恥ずかしいけれど、くすぐったく甘い気持ちで一杯だ。
「瑞樹……これって何だか結婚式みたいだな」
「……宗吾さん……本当に」
「このままプロポーズしたくなるよ。あー指輪を買っておけば良かったよ」
「くすっ」
僕にはもうこれで充分過ぎる程、幸せだった。家族ぐるみの幸せに慣れていないので……戸惑う程だ。
「ハイ!撮りますよー」
シャッター音が、この時間を一コマ一コマを刻んでいく。なんて素敵な時間なのか。まるでおとぎ話のような幸福で辺りが包まれていた。
「瑞樹、好きだよ」
宗吾さんが小声で囁き…… 自然とその腕が僕の腰に回され、寄り添うようなスタイルになった。
「わぁ……それってかなり絵になりますね」
カメラマンの女性の深いため息が聞こえた。続いて宗吾さんのお母さんのため息も……うっとりと。
「そうだわ、あれも付けてみたら?」
「それ! ナイスアイデアですね~」
もう充分過ぎる程、幸せな気持ちになっていたのに、次の瞬間……更に驚くことが起きた!
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