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深まる秋・深まる恋 14

「流さん、なんかハロウィン向きの衣装ない?」    薙くんが聞くと、流はニヤッと不敵な笑みを浮かべた。 「もちろんあるさ。しかもよりどりみどりだ」 「やった! そうこなくっちゃ!」 「はぁ……流……いつの間にそんなにも衣装を揃えた? 僕は一度も見たことないが……」  翠さんは、もはや呆れ顔だ。 「いや……ずっとやってみたくて、ついつい毎年あれこれ買ってしまって……その」  だんだん声が小さくなっていく。ということは、かなりやましい衣装もありそうだな。 「流、どんな衣装がある? 」 「まぁ王道のドラキュラに……魔女に……姫ドレス……妖精に、猫耳にうさ耳とか……」 「……女物が多いようだが誰が着るのだ? 」 「ははっ、まぁ目についたのがそれだった」  ふと俺は以前ハロウィンのイベント企画を手掛けたことがあるので、せっかくならこの寺をハロウィン仕様に装飾するのも面白いと思った。 「そうだ、よかったら俺に飾り付けを任せてくれないか。寺にあるものでハロウィンらしくしてみるよ」 「おお!それは助かるぜ。強力な助っ人登場だな。さすが宗吾やるな!」  流が満足そうにバンバンと俺の背中を叩く。イテテ……おい、馬鹿力だな。 「あー各自、仮装に使えそうな衣装があったら提供してくれ~」 「流さん、オレの学ランを貸すよ。仮装に使っていいよ。ただし破かないでくれよ」  薙くん、それナイス! 瑞樹の学ラン姿か、それ見たいぞ! 「いいな! 薙サンキュ! じゃあ丈は、あれを貸せよ」 「えっと……やっぱり白衣ですか」 「違う違う! ナース服を持っているだろう? 」 「え! 兄さん……何でそれを知って、あっ余計なことを」  丈さんが悔しそうな顔をした。 「くくっ。やっぱりなぁ。絶対持っていると思ったぜ。お前は『変態』だもんなぁ。洋くんに着せようと思って密かに買い揃えただろう」 「うっ……兄さんには……言われたくないです」  ふむ、丈さんも流も『変態印』っと。あっそれは俺もか。  さぁ瑞樹に何を着せようか、何を着ても似合うよな~制服姿も捨てがたいし……猫耳とかも溜まらん。ああぁ女装は夢のまた夢だと思っていたが、ハロウィンのドサクサに紛れて……妄想がどんどん膨らんでいく。 「パパがまたおサルさんになった」  息子のボソっと呟く声が聞こえたような。 ****  流さんと宗吾さんの盛り上がりが激しくて、ドン引き状態なのが僕達だ。 「……何だか勝手に盛り上がっているね。恐ろしいから、こっちでお茶でも飲もう」 「えぇ翠さん……俺、嫌な予感しかしません。しかも何だよ! ナース服って! はぁ……丈の奴は油断も隙もない」 「洋くんも? 僕もだよ。全くいっそ流がドレスを着たらいいよ」 「ぷっ、それかなりウケますよね」  洋くんと翠さんがクスクス笑いだしたので、つられて僕も笑ってしまう。 「僕も宗吾さんの妖しい魔女姿とか見たいです」 「それもウケル!」  僕の膝の上で芽生くんもワクワクと話を聞いている。    「芽生くんも楽しみかな?」 「うん! おにいちゃん、ハロウィンの仮装って楽しいよね~この前ね幼稚園でもハロウィンパーティーをしたよ」 「そうなの? どんなカッコになったの?」 「あのね、みんなで白い布をかぶっておばけになったよ」  微笑ましいな。僕が小さい時はハロウィンなんてなかったが……弟もおばけの仮装をしたら可愛いだろうな。クリクリした目で利発で……でも甘えん坊だった夏樹。 「きっと可愛いお化けだったろうね」 「ねぇねぇ芽生の衣装もちゃんとあるかなーおはなしきいているとおとなのだけみたいだから、しんぱいだな」 「そうだね。猫耳とかウサミミもあるし、それはどう?」 「芽生はうさぎがいいな。尻尾もつけたいな~野原をピョンピョンするの!」 「あ……それならたしか薙が小さい時の白くてモコモコなウサギのスリーパーがあるから、それと合わせてみたらどうかな」 「うん!」  翠さんからも衣装の提供をしてもらえるとはありがたい。これで芽生くんの仮装は決まりだ。  芽生くんもすっかり乗り気だから、今宵はとことん付き合ってあげよう! 仮装してハロウィンパーティーなど、賑やかで華やかな経験は僕になかったが、このメンバーとならきっと楽しいと思う。   「さて、まずは装飾をしよう。瑞樹、手伝ってくれるか」 「あっハイ!」  寺から飾りとして提供されたのは大量の鬼灯(ほおずき)と行燈だった。あとは本物のカボチャがゴロゴロと。 「なるほど鬼灯ですか、ぴったりですね」  鬼灯はお盆の迎え火の代用として飾る印象が強い。鬼灯を飾りあの世から戻ってくるご先祖様を迎える意味を兼ねているそうだ。他には魔除けの役割で鬼が守っている証に見立て、悪い霊や邪気を追い払うことができるという謂れもある。  まさにハロウィンにぴったりだ。カボチャのランタンに見えるしね。 「お盆で使った残りを捨てずにそのまま取っておいたそうだよ。瑞樹はハロウィンアレンジメントの経験はあるか。ぜひ君の腕を借りたい」 「ハイ、あります!」  これは宗吾さんとの初めての共同作業だ。  彼とふたりで何かを作り出すなんて新鮮で、胸が高鳴ってしまう。 「瑞樹ならどうする? この鬼灯をどう並べる? 」 「そうですね。枝から一個ずつ取り外し暗闇の道にジグザグに並べましょう。行燈の灯りが届くと、少しおどろおどろしい雰囲気に見えますよ」 「なるほど、じゃあこの大量なカボチャはどうする? 」 「居間にシンボルタワーを作っては? 」 「カボチャを積んで? 」 「えぇ、裏から支えて組んでいきます」 「へぇ」  すごい……宗吾さんとの仕事はやりやすい。  職場も職種も違う僕達だが、今日だけは一緒のような気分だ。 「瑞樹の仮装を楽しみにしているよ」 「あの……宗吾さんはどんな仮装をして欲しいですか」 「うーん選びきれないよ。だがどんな瑞樹でも最高だ」  暗闇に紛れ……頬にチュッと軽くキスをされてしまった。 「あっ……」  遠くに芽生くんの声が聞こえていたので、動揺しカボチャをゴロゴロと落としてしまった。  全く……こういう時の宗吾さんは、妙に男らしい色気があるから困ってしまうよ。

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