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北の大地で 5

今日は最初に新年のご挨拶をさせてください♡ 新年あけましておめでとうございます。 今年も『幸せな存在』の連載を続けていきます( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )新年からなんとか更新できました。 相変わらずじっくりゆっくりな展開ですが、細やかな心の変化を追ってみたいです。 私が私らしく楽しんで書けるように努めていきます。 『瑞樹の存在』が皆を幸せにする、そんな話が書きたいと精進しています。 読んで下さる皆さま、いつもリアクション等で応援して下さり、本当にありがとうございます。 **** 「ただいま!」  車を花屋の店先で停めた潤が家の前で叫ぶと、すぐに電気がついて中からバタバタと広樹兄さんが出て来た。 「おー帰ったか」  僕は緊張した面持ちで、宗吾さんと向き合った。 「あの、ここが僕の家です」 「そうか。ここが君が育った家か。何だか感激するよ」  こんな風に恋人に僕が育った家を紹介する日が来るなんて……少し前までは思いもしなかった。  函館でクリスマスを過ごすのは高三の冬以来か。推薦で東京の大学への進学が決まり、後少しでここを出ていけると、誰にも気付かれないよう指折り数えていた。  あの頃の僕は目の前に直面する問題と向き合うことはなく、そこから逃げることばかり考えていた。それしか選択肢はないと思い込んでいた。  あの頃の僕に言ってやりたいよ。  そんなにビクビクしなくてもいいんだよ。実の家族と引き取ってくれた家族。どちらも縁あって繋がった関係に変わりはない。せっかくつながった縁をありがたく思い、縁があったことを謙虚に素直に受け入れればいい。  瑞樹……君はもっと肩の力を抜いて深呼吸して。悩みがあるなら周りに相談して、一人でそんなに抱え込まないで……と。 「何してる? 早く入らないと風邪ひくぞ」 「あっごめんなさい。宗吾さんが先にどうぞ」 「おー宗吾、とうとう来たか。さぁあがれよ」 「あぁお邪魔するよ」 「そうだ、瑞樹、手を見せてみろ」  花屋の入り口に入るなり、広樹兄さんが僕の手を取った。 「冷たくなってるな。指は大丈夫か」  指先の温度は相変わらず感じないので冷たくはない。だが同時に温かくもない。確かに僕の指先なのに僕の物ではないようで、相変わらず微妙な違和感がある。 「うん……まだ感じないから」 「そうか、あれ? お前随分温かそうな手袋をしてるな」 「これは宗吾さんからの贈り物だよ。彼のお母さんが編んでくれたんだ」 「へぇすごいな。おっと、立ち話もなんだから中に入れ。母さんも待ってるぞ」 ****  瑞樹が10歳から18歳まで過ごした家を前に、いよいよ緊張が高まった。  瑞樹の育った家は一階が花屋の店舗で、その奥が自宅になっていた。花屋の大きなガラスのショーケースには大量の花が入っていて、床が掃除した後で濡れているせいもあり、冷気が駆け上がり凍てつくようだ。 「さぁ奥が自宅になっているんだ。早く入れよ」 「分かった」  いよいよだ。ネクタイをぐっと締め直して息を吐くと、玄関先でも真っ白だった。  しかし外も中も、寒いな。  冬の函館は初めてだから寒さが半端ないよ。しかもさっきは雪に足を取られて転んでしまい、カッコ悪かったしな。  誘われるがままにコートを脱いで入ろうとしたら、広樹に呼び止められた。 「あれ? 宗吾、もしかして派手に転んだのか」 「う……まぁな」 「くくっ、やっぱりな。ケツがぐっしょり濡れてるじゃないか。ほらほら風邪ひくぞ。そうだ。先に風呂に入れよ!」 「え? だが、まだちゃんと挨拶もしていないのに」 「いーからいーから。母さんは夕食の準備が遅れていて焦っているし、お前に風邪ひかれても困るぜ。ほら風呂はここだ。もう沸いているから入れ入れ!」  というわけで、半ば強引に風呂場に押し込められてしまった。  完全に広樹のペースにのまれている。  確かに自分の尻に触れると、さっきはコートで隠れていたがズボンの尻部分が見事にぐっしょりと濡れていた。  あー参ったな。  瑞樹の前であんなにド派手に尻もちついたもんな。確かに俺が風邪ひいたんじゃシャレにならない。冬の函館は都会っ子には凍えあがる寒さだ。風呂場からは温かい湯気が俺を誘ってくる。  よしっ! ここは甘えて入浴を先に済ませよう。そう決めてスーツを脱ぎ、ワイシャツを脱ぎ、ズボンのベルトに手をかけた所で、瑞樹がおずおずと入ってきた。 「おっ瑞樹、どうした?」 「あの……着替え中にすみません。着替えを兄さんが持って行けと。あと風呂の使い方分かりますか。何しろ古い設備なので」 「サンキュ。教えてもらえると助かるよ。やっぱりズボンが濡れていたよ」 「あっ本当だ。僕……気づかなくて。かなり寒かったんじゃないですか」 「いやさっきは可愛い瑞樹を前に躰が火照り、気づかなかったよ」 「なっ……」  瑞樹は上半身裸の俺を凝視できないのか、恥ずかしそうに視線を逸らしてしまった。  うーむ俺としてはもっとしっかり見て欲しい所だけどな。ジムで鍛えた(最近行ってないが)筋肉はなかなかだろう? 「あっあのうちの風呂は旧式なので、シャワーがなくて」  瑞樹が顔を赤面させながら風呂場に入って使い方を説明してくれる姿が甲斐甲斐しく、そんな彼を抱きしめたくなってしまった。だがここは瑞樹の母親と兄弟が、薄い壁ひとつで生活している場所なので、そんな不埒なことは出来ないんだよな。  やっぱり……だよなぁ。函館では手は出せない。拷問になることは覚悟していたが、なかなか初っ端から辛いもんだ。そんなことを考えながら風呂場の使い方を学んでいると、狭い空間なので瑞樹の頭が俺の胸元にぶつかった。  胸元に瑞樹を感じ、またもや手がうずうずと伸びそうになる。すると瑞樹はやっと俺を見上げ、ニコっと微笑んでくれた。  あぁこの笑顔を待っていた。瑞樹と出逢っても間もない頃から幾度となく浮かべてくれた彼特有の清楚で可憐な淡い笑顔にクラっとする。  更に瑞樹が躊躇いがちに手を伸ばし、指先で俺の肌に触れて来た。  確かめるように……じっくりと。  おっおい……まさか……それ煽ってんのか。 「どっどうした?」 「いえ……やっぱり逞しい躰ですね」  おいおい瑞樹、んな煽るようなこと言うなよ。またもや『節操なしのヘンタイ』に俺をなり下げようってのか。ううう……下半身がブルブル震える始末だ。 「おいっもうそれ以上近寄るな」 「あっすみません。僕のこの指先……宗吾さんの肌の温度なら、もしかして感じるかもと思ったので、つい」 「そうか……」  やっぱり気にしているのか。  そりゃ……早く感じて欲しいよ。瑞樹の全身で俺を丸ごとさ。だが焦りは禁物だ。あんな状況下に陥った瑞樹がここまで立ち直ってくれたことに感謝しなくては。  自分のペースで相手を一方的に追い詰めては駄目だ。求めすぎても駄目だ。瑞樹には瑞樹のペースがあるのだから。  彼の事を想うと、自然と優しい気持ちが芽生えて来る。  恋って不思議だな。人をこんなにも変えてしまうなんて。 「俺はここに瑞樹を焦らすために来たんじゃないよ。指の麻痺のことは少し忘れよう。なっ。俺は瑞樹が俺の目の前にいて、笑ってくれるだけで、幸せなんだから」  

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