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北の大地で 6

「おーい瑞樹~いつまでそこにいるんだ? 早く出てこいよ」  突然ドアがガチャっと開いて広樹兄さんが現れたので、ビクッと震えてしまった。 「あっ」 「うわっ」  宗吾さんは慌てた様子で、何故か自分の胸に両手をあてて隠した。 「プッ! おーい宗吾、なんちゅう格好だよ。そしてなぜソコを隠す?」 「いや、なんとなく」 「クスッ」  宗吾さんの反応が面白くて思わず吹き出してしまった。  宗吾さんって、黙っていればすごくカッコいいのに、時々すごく変だ。 「瑞樹は、いつまでそこにいるんだ。風呂の説明もして着替えも渡したのなら、もうこっちに来い。ぼーっとしてると食われちまうぞ~ お前はまだ嫁入り前なんだからな」 「にっ兄さん! また変な事言って……」  広樹兄さんも、宗吾さんが来ると何だか変なスイッチが入ってしまうようだ。  **** 「あの……すみません。こんな格好で」  本当はビシッとスーツで決めて来たのだから、そのままお母さんや広樹にスマートに挨拶する予定だったのに、何故か俺は上下少々くたびれたスエット姿で(何故かサイズだけはぴったりなので、これ広樹のなのか)ビシッと正座していた。ちょっと笑える恰好だよな。   「宗吾さん、そんなこと気にしないでいいのよ。うちはそんなに畏まるような家じゃないわ。クリスマスといっても買ってきたものを並べただけだし」 「とんでもないです。花屋はクリスマスは一番忙しい時ですから、お構いなく」  和室にファーストフードのチキンや出前の寿司が並ぶ食卓だが、俺も含め皆幸せそうな笑顔を浮かべていた。  そして俺は何故か広樹と潤の間に座らされていた。さっきから妙な威圧を感じるのは気のせいだよな。瑞樹はお母さんの隣にちょこんと照れくさそうに座っていた。  二週間ぶりに瑞樹と会えたので、さっきからずっと目が離せない。 「んじゃ、乾杯するか」 「おう!」  並々とロゴの入ったグラスに、なみなみとつがれるビール。  ビールで乾杯か。広樹らしいよな。 「宗吾さん、メリークリスマス! 」 「宗吾、よろしくな! 」 「宗吾さん、瑞樹のことをよろしくお願いしますね」 「宗吾さん……来てくれてありがとうございます」 「メリークリスマス! 葉山家の皆さん! 」  五人の声が大きく重なった。  よしっ!ここは俺もビシッと、瑞樹との今後について宣言しておきたい。 「先に挨拶させて下さい。あの……改めまして滝沢宗吾です。同性同士ではありますが、瑞樹くんとは夏前から真剣にお付き合いさせてもらっています。最初にもう一度改めて俺のことを話しておきますと……俺には五歳の息子がいて二年前に離婚しています。元妻には既に瑞樹のことを理解してもらっています。それから俺の父はもう他界していますが、母には彼を紹介済みです。母も受け入れて喜んでくれています」 「まぁなんだか改まって照れるわね。宗吾さんには本当にお世話になって……瑞樹がどんなに救われたか……その、あなたとの事……最初に聞いた時は正直驚いたけれども、宗吾さんが何よりこの子に対して真剣だということがビシビシ伝わってきたし、広樹も潤もあなたのこと信頼しているし。何よりこの子がもう……あなたに惚れて惚れて」 「お……お母さん」  隣に座る瑞樹は茹蛸のように顔を真っ赤に染めていた。相変わらず可愛いな。確かに面と向かって宣言されるのは照れくさいよな。だが俺はもう瑞樹以外の人とは考えられないから、どこまでも推しまくる!よしっ頑張るぞ。 「それで、ご相談があります」 「なっ何かしら」 「瑞樹くんは今は療養中ですが……東京で仕事に復帰する時が再びやって来ると思います。その暁には、俺たち一緒に暮らしてもいいですか」 「まぁ……同棲ってこと?」  ガバっと俺は頭を下げた。すると瑞樹も慌てて一緒に下げてくれた。  打ち合わせなしだったのに……彼の同意がこの上なく嬉しい! 「お母さん……僕も……そうしたいです」 「まぁ瑞樹まで。あぁ頭をあげて頂戴。もう、この子ったら。こんな状況……お母さん照れるわ。あのね、瑞樹の自由にしていいのよ。あなたが幸せなら嬉しい。あなたが元気で笑ってくれるのが一番なの。もうこの子がこんな風にしたいことやりたいことを言えるようになったなんて、嬉しいわ」    瑞樹はお母さんに肩を抱かれ、ますます面映ゆいようだった。  そして俺は何故か広樹と潤に肩をガシっと抱かれていた。(イテテ……力、強いな。この二人は俺に負けず劣らずの体格だからな) 「しょうがねぇな。俺の可愛い弟の瑞樹だが……宗吾になら特別に許すか」 「しょうがない……オレの大事な兄さんだけど……宗吾さんなら許しますよ」    そして最後は瑞樹のお母さん、広樹。潤から逆に頭を下げられてしまった。 「瑞樹のこと幸せにしてやってくれ。『瑞樹の幸せ』が俺たちの幸せに繋がるんだ。それを俺たちは……あの事件から学んだ」  瑞樹にとって辛く悲しい事件だったが、それによって深まったものが確かにある。    クリスマス・イブに誓うよ。  俺にとっても『瑞樹の幸せ』は、俺の幸せに繋がっていく。  こんなにも人を深く愛したことがあったか。  人を愛することに喜びを感じることがあったか。  君のすべて……君を取り巻くすべてを、俺は愛していく。 「お母さん、兄さん……潤、ありがとう。僕を……僕の存在を受け入れてくれて。僕は宗吾さんと出逢って、宗吾さんに愛されて幸せなんです」    

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