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幸せを呼ぶ 22

「リーダー! 先程はありがとうございました」    休憩時間に給湯室でリーダーと二人きりになれたので、間に入ってもらったお礼を言えた。 「葉山は、色々とまだ……人が怖い時もあるだろう。無理はするなよ。今日の歓迎会も欠席してもいいんだぞ」 「いえ、大丈夫です。出ます」 「そうか。実は君の復帰祝いも兼ねているから嬉しいよ」 「あっ……そうなんですね。僕の事まで、ありがとうございます」 「新人は粗削りな奴だから多少手を焼くかもしれないが、君ならと思って任せたんだ。頑張ってくれ」 「はい!頑張ります!」  飲み会か……  大沼では何度か小学生時代の同級生と飲んだ。と言っても、みんな家族連れでアットホームな飲み会だったから、今日は久しぶりに会社員らしい行事に参加する。    即答したが、本当は少し緊張していた。ここ数カ月の間は一度に大勢の人と話すことがなかったので、ちゃんとこなせるか心配だ。  リーダーが去った後、給湯室の白い壁にもたれ小さな窓から、春の空を見つめた。  宗吾さん、僕……頑張っています。  スマホを取り出し確認すると、ちょうど宗吾さんから連絡が入ったので、急いでチャット形式で僕も返信を打った。 『瑞樹、今日の帰りは何時頃になりそうか』 『すみません。今日は新入生歓の飲み会が入りました。僕の復帰祝いもしてくださるそうなので』 『そうか、場所は?』 『日比谷です。会社近くの割烹料理屋の田(でん)というお店です」 『あぁそこなら知ってるよ。……そうか、気を付けて行くんだぞ、くれぐれも』 『はい』  今日は会えないと思うと、急に寂しくなってしまった。  だから素直に気持ちを伝えたくなった。 『宗吾さん、今日は会えないですね……少し寂しいです』 『俺もだ』  宗吾さんも同じ気持ちでいてくれる! それが嬉しくてスマホを手に微笑んでしまった。 『おっと会議の時間だ。飲み過ぎるな……いや飲まない方がいい。君は酔うと危険すぎる。それは自覚しているだろう?』 『わかりました! 今日は久しぶりだし、酒は飲まない方向でいきます。宗吾さんも仕事頑張ってください』  スマホの画面から宗吾さんが消えるのを見送っていると、突然視界に肌色のものが揺れた。    慌てて顔を上げると、新人の金森が手をひらひらと振って笑っていた。 「先輩、どうしてスマホ見て微笑んでいたんですか。あーもしかして彼女とメール中? お邪魔でしたか」 「ちっ違う!」 「照れちゃって、可愛いですね」  失敗した。  僕は最近宗吾さんに関して、頬を緩めっぱなしだ。  ここは会社だ、もっと気を引き締めないと。 **** 「じゃあ葉山の復帰と、久しぶりに我が部署に配属された新入社員の歓迎を込めて、乾杯」 「乾杯! 」  会社からほど近い料理屋で、部署のメンバー15人程で飲み会を始めた。僕が入社してからほぼ変わらないメンバーなので、気心が知れている。 「葉山と飲むの、久しぶりで嬉しいよ」 「そうだな。でも怪我のせいでずっと飲んでいなくて……だから今日はノンアルコールで頼む」  宗吾さんにも飲み過ぎるな(正確には飲むな)と言われたし、やめておこう。 「そうか。お前、酔うと可愛いのに残念だな。可愛い葉山見たかったなー」 「馬鹿、男に可愛い、可愛い言うな」 「はははっ、だな。俺、何言ってんだ? でもさぁ……なんか久しぶりにあったら、その可愛さに磨きかかったぞ。もしかして休職中にいい人でも出来た? 」 「だからもう可愛いって言うなー」  同期の菅野とはポンポン物を言い合える間柄なので助かる。そして冗談めいた口調だが、きちんと頼んだことは守ってくれる。  さっきから僕に酒を勧めてくる人をやんわりと断り、代わりに飲んでくれていた。 「お前こそ飲み過ぎたら、まずいんじゃ……」 「大丈夫だってぇえ」  何だかすでに声が変だ……大丈夫かな。 「あっ! いーな! 先輩同士で仲良く飲んじゃって。俺もそこに混ぜてくださいよ」  既に結構飲まされベロベロな状態の後輩が、僕と菅野の間に突然ドスンと座ってきた。  わっ! すでにかなり酔っぱらっているようだ。 「お前、酒臭いぞ。大丈夫か」 「うっ……もう、駄目っす」 「わっー待って!」  そのまま僕に向かって倒れてきたので、焦ってしまった。 ****  よしっ、今日の仕事は完璧にこなした。    金曜日なので芽生は母の家に泊まる。だからこそ瑞樹を誘って外に飲みにいこうと思ったが、想定外にフラれてしまった。まぁ、歓迎会ならしょうがないが。  俺はどうするかなと、スマホを眺め苦笑してしまった。  瑞樹が大沼にいた時は我慢できたのに、手が届く場所にいると思うとこんなにも我慢できないなんて、節操ないか。  だがもう十分過ぎるほどに俺は待っただろう。躰の奥から燃え滾る想いに、悶々と苦しめられているよ。あと数週間が我慢できない。 「滝沢さん、お久しぶりです」 「おっ林さんじゃないか。暫く見なかったが、どうしてた?」 「あぁパリロケですよ。いやぁ2週間缶詰状態で参りましたよ」 「そうか。だがスタッフに辰起がいただろう? 」  耳打ちすると、ニヤリと笑った。 「分かります? 」 「若いエキスもらったな。肌がツヤツヤだぞ」 「はは、まあな。そうだ今日は空いてますか。金曜日だし一杯行きませんか」 「行くっ! 」  イカン……つい即答してしまった。 「ははっノリノリですね。でも俺でいいんですか。金曜日なのにデートとかは? 」 「行きたい店があるんだ。付き合え! 」 「どこですか。パリ帰りの身としては……和食がいいんですが」 「喜べっ、和食の割烹料理屋だ! 」 **** 「なるほどね。滝沢さんも案外可愛いことをするんですね」 「五月蠅いな。いいだろ?……どうしたって気になるんだから。ならいっそ! 」 「まぁ俺をダシにつかってもらう分にはいいですが。あーあそこか。例の可愛い彼、心配ですね。幸い今は隣の男の子が代わりに飲んでいるようですが、この後どうなることやら」 「……うーむ」  瑞樹が飲み会をしているという割烹料理屋に、林と潜入してみた。  『可愛い子には旅をさせよ』などと悠長なことを言ってられない。  あーもうこの俺がストーカじみたことをしていると思いつつ、瑞樹が酒を飲まされ過ぎないか、誰かに絡まれないか……心配でチラチラ様子を見てしまう。  瑞樹は気が付いていないが、俺の方は気になって仕方がない。 「滝沢さん、なんかキャラ変わりましたね」 「しーっ、認めるから、静かにしろ!集中したいんだ」 「やれやれ」  

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