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恋の行方 7

 公園から戻った僕は、そのまま勢いで段ボール箱を全部片づけることにした。  元々そこまで多い荷物ではなかったので、集中しれやれば夜までに終わるはずだと、とにかく頑張った。  その間に宗吾さんが夕食を作ってくれた。 「さぁ夕食だぞ! 瑞樹、片づけお疲れさま。頑張ったな」  夕食はステーキと野菜スープだった。  ……一馬もお祝いがあると、よくこのメニューを作ってくれたんだ。  少しの動揺を隠し口にいれると、宗吾さんの家の味がした。何度かご馳走になった宗吾さんのお母さんの味に似ている。お肉の焼き加減も味付けも、スープの野菜の切り方もベースの味も全然一馬とは違った。  宗吾さんの真心を感じ……心から美味しいと思った。  こうやって僕はどんどん宗吾さんの色に染まっていく。 「美味しいです。すごく豪華ですね」 「引っ越し祝いだよ。瑞樹には今日は精をつけてもらわないといけないだろう、なっ」 「パパー、『セイ』ってなあに?」 「ははは、んーっと、『長持ち』ってことかな?」  なっ……長持ちって、何それ……!!! 「そ……宗吾さんは、本当に……駄目なお父さんです!」 「はははっ!」 「ふぅん、芽生にはよくわかんないけど、面白いことなんだね」 「面白いかどうかは」  笑顔の零れる和やかな夕食。  その後少し一緒に芽生くんの好きなアニメを観た。それから宗吾さんと芽生くんがお風呂に入ったので僕は夕食の後片付けをした。こんな風に家事を分担できるのが嬉しい。 「おにーちゃん、あがったよ」 「ん、こっちにおいで!」  裸ん坊の湯気の立つ芽生くんをバスタオルで受けとめ、よく拭いてあげる。まだ柔らかい髪をドライヤーで乾かしてあげた。子供の髪には、すぐに天使の輪が出来るんだよな。 「ほら、乾いたよ」 「ん……ありが……と」  日中かなり遊んだせいで、芽生くんがうつらうつらし出したので、宗吾さんが抱きかかえて、子供部屋に連れて行ってくれた。 「瑞樹はちょっと待ってろ」 「あっはい」  返事をする声が、つい上擦ってしまった。  どうしたって意識してしまう。芽生くんが寝たら……それは合図だ。  これから僕たちをすることを想像したら気恥ずかしく、じっと待っていられなくて、バルコニーに出て春の夜風にあたった。 「瑞樹、そろそろおいで」 「あ……芽生くん、もう寝ましたか」 「それが……ごめん。あと少しなんだ。君を呼んでいるから少し代わってもらえるかな」 「あっじゃあ僕が、少し添い寝しますね」  宗吾さんに手を引かれ、芽生くんの部屋に入ると、もう瞼を閉じ眠たそうな芽生くんが僕を呼んでいた。 「おにーちゃん、こっちきてぇ……」  いつものように僕は芽生くんの布団に入り、添い寝してあげる。 「ここだよ。ほら、ちゃんと傍にいるよ」 「うん……えへへ……ゆめみたい。メイのだいすきなおにーちゃんが、きてくれて」 「うん、これからは君と同じお家でくらすよ」 「ありがと……ぱぱのこと、よろしく……むにゃ……むにゃ」  幼い芽生くんが、パパのことが大好きで大切に想っているのが、ひしひしと伝わってきた。寝入りの子供の体温は高いから布団の中はポカポカだった。同時に僕の心もポカポカになっていた。 「芽生くん、ありがとう。僕を受け入れてくれて。僕の方こそよろしくね」  しばらく芽生くんのあどけない手を握りしめ、僕もうとうとしていると、宗吾さんに呼ばれた。 「ぐっすりだな。もう……」 「はい……」 「おいおい、瑞樹は今日はそのまま寝ちゃだめだぞ」 「あっはい」  もう……心臓がどうにかなりそうだ。僕はそっと芽生くんの布団を抜け出した。  宗吾さんが迎えに来てくれたので、いよいよだ。  僕たちが抱き合う場所は……僕の部屋なのかと思ったので、宗吾さんの手を逆に引っ張ろうとすると、意外そうな顔をされた。 「瑞樹、どこへ行くつもりだ?」 「え……あの、僕の部屋なのかと。だって……」  宗吾さんの部屋は前の奥さんと過ごした場所だし、あのベッドだって……奥さんと使ったものだから。  流石に、そこまでは言えなかったが、どうやら僕の中にも一人前に嫉妬心というのが芽生えていたらしい。 「瑞樹、それ嬉しいよ」  いきなり宗吾さんにバッグハグされてしまった。 「あっすみません。そんなつもりじゃ……いや、正直に言うと……嫉妬してしまいました」 「瑞樹の口からそんなこと言ってもらうなんて、幸せだ」  なんで宗吾さんが喜ぶのか、分からない。 「おいで、見て欲しい」  グイっと手を引かれて、宗吾さんの寝室に入ると驚いた。 「え……なんで」  最後にここに泊まった時、ふたりでじゃれ合ってこの部屋に入ったが、ガラリと雰囲気が変わっていた。 「あ……カーテンの色が違う」 「そうだよ。こういう色が好きだろう」 「はい。モーブ色はとても好きです」 「ほら、もっと中へおいで。ベッドも見て欲しい」  ベッド?   そのまま視線を移して更に驚いた。いつの間に買い換えたのか。  それまではシングルとセミダブルが並んでいたのに…… 「大きくて……広いです」 「これはキングサイズだよ。ここは君と過ごすための部屋に一新した」 「あっ……」 「これなら激しく動いても、もう落ちないだろう」  もう卒倒しそうだ。そんな風にあからさまに求められて。 「そんな……」 「もう待ったはなしだぞ」 「はい……」  僕は宗吾さんに押し倒されるように、広いベッドのシーツの上に仰向けに寝かされた。そのまま宗吾さんが体重をかけないように気遣いながら、僕の真上に覆い被さってきた。  優しい影が唇に近づいて……最初は啄むような口づけを受けた。  初めて交わした口づけを彷彿させる淡い色から、それは徐々に濃さを増して行く。 「あ……」 「好きだよ。好きという言葉で片付けられない程、君に恋してる」 「僕もです、宗吾さんが僕をここまで導いてくれました」 「今日は最後まで抱くよ」  耳元で甘く低い声で囁かれ、僕は宗吾さんの首に手を回して頷いた。 「……そうして下さい」    

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