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特別番外編 『僕たちのホワイトデー』

今日はホワイトデーなので、特別SSを書いてみました♡ いつも『幸せな存在』を読んでくださり、リアクションをありがとうございます。 お礼を兼ねてホワイトデーの甘いお話を綴ってみました。 **** 『僕たちのホワイトデー』  土曜日の昼下がり。 「瑞樹、さっきから何を見ている?」 「あっ宗吾さん……」  朝から冷たい雨模様だった。暖房を入れているので窓ガラスが結露ですりガラスのように曇り、視界が悪かった。  少し手で隙間を作り、ビルに囲まれた四角い空を見上げていると、宗吾さんに話しかけられた。 「いえ、3月なのに随分冷たい雨だなと……」 「あぁ今日は雪になるかもな。さっき天気予報で言っていたよ」 「えっ雪ですか」    僕が10歳まで生まれ育った大沼は、この時期はまだいつも雪深かった。それに去年の今頃……まだ僕は大沼にいたと思うと、何だか不思議な気分だ。 「去年の今頃……俺達はまだ離れ離れだったな」 「そうですね」 「桜が咲くのが待ち遠しかったよ」 「僕も待っていました」 「瑞樹? こっち向いて」  宗吾さんが僕と向いあい、そのまま僕の躰を挟むように窓に両手をドンっとついたので、少し焦ってしまった。窓ガラスに押し付けられた僕は、逃げ場がない状況だ。 「おっ! これってひと昔前に流行った『壁ドン』みたいだな」 「クスッ……あっあの芽生くんがいるので」 「芽生は今、昼寝してるよ」 「そうなんですか」 「瑞樹、もしかして……大沼が恋しい?」 「そういうわけでは」 「じゃあ……どうしてそんな寂しそうな顔をしている?」  顎を持ち上げられ、瞳の奥深くまで、じっと覗かれる。  僕は宗吾さんに隠し事が出来ないので、目を泳がせてしまう。   「あの……雪が……雪が恋しくて……」  冷たい雪に触れたい。  冷たい雪を手のひらにのせると、僕の体温で雪が解けていく。  僕が生きていると実感できる瞬間……  あの感覚を、また味わいたくて。 「雪か」 「はい……」 「瑞樹の願いは叶うよ」 「えっ」 「見てごらん」  宗吾さんが手を伸ばし窓を少し開けると、白い雪が舞い込んで来た。 「本当に雪に?」 「うん。今、ちょうど雨が雪に変わったようだ」 「わ! すごい……」  都会で雪が見られるのは冬のシーズンに一度、あるかないかだ。今年の冬は特に暖冬でもう今年は無理だろうと諦めていた。  それに最近は桜の開花間近とニュースで報道される程、春めいていたのに、なんで今日に限って冬に逆戻り? しかも雪まで。 「信じられません。夢みたいです」 「じゃあ確かめてみるか」 「あっ……んっ」  宗吾さんが僕を抱きしめて口づけた。リビングの大きな窓辺でこんなことをしたら駄目なのに。 「宗吾さん、駄目ですって。見えちゃう……窓を」 「あぁそうだな」  窓ガラスは閉めてくれたが、そのまま窓ガラスに押し付けられるように口づけされてしまった。  窓ガラスを背にしているので、とても冷たいのに、躰はどんどん温まって……熱が上昇してしまう。 「ふあっ……」  宗吾さんの口づけは危険だ。甘くて……持ちこたえられなくなる。宗吾さんの吐息と僕の吐息が交じり合って、一つに溶けていく感じが気持ちいい。  生きている──  愛し合っていると直に感じられるから、口づけを交わすのが好きだ。 「止まらなくなるな。瑞樹とのキスはいつも……」 「僕もです」 「もっと欲しいか」 「もっと……」  僕の方からも宗吾さんの肩に手を回し求めていく。 「んっ──んっ」  宗吾さんからの口づけも深く深くなっていく。  僕たちは恋を始め、愛を芽生えさせ暮らしている。  そう実感できる瞬間だった。 「ふわぁ~ボク寝ちゃったー」  その時、隣の部屋から芽生くんの声がしたので、二人ともまるで叱られた子供みたいに、ビクッと身体と跳ねさせてしまった。  パタパタ……かわいい足音の後、去年より一回り成長した芽生くんが顔をリビングにやってきた。 「あれ? パパたち何していたの?」 「ん……あぁ雪を見ていた」 「雪? 」 「おいで、ほら」  芽生くんと一緒に空から舞ってくる雪を見上げた。都心の雪は水っぽくて綺麗な雪の結晶は見ることはできないが、雪の白さは目にしっかり見える。 「そうか~今日はホワイトデーだから、白い雪が降って来たんだね」 「ふふ、確かにそうだね」  確か……ホワイトデーの『ホワイト』って『白色』という意味以外に「純粋」「甘い=砂糖」のニュアンスがあるから、純愛にかけて名付けられたと聞いていたが、芽生くんの発想も、素直でいいな。  僕は白が好きだ。  花でも……何色にも溶け込んでくれる白い花が好きだ。 「あれぇ……窓に手形がびっしりだね。それに真ん中は人の形だね。ねーパパたち何してたの? やっぱり教えて~」  芽生くんは悪戯に笑う。  僕と宗吾さんは顔を見合わせて、苦笑いをするしかなかった。  振り向けば確かに壁ドンの跡……あぁ僕も古いな。  でも宗吾さんにどこにも行けないよう押さえ込まれての口づけは、とても刺激的で良かった。 「瑞樹、続きは夜にな」 「あっはい」 「今日はホワイトデーだから」 「宗吾さんストップ!それ以上は言わない方が身のためですよ」 「おいおい酷いな、いつも親父ギャグを言うと?」 「……それはもういつものことだから」 「今日はただ君を愛したいと願っただけなのに」  真顔で耳元で愛を囁かれ、恥ずかしくて嬉しくてクラクラしてしまう。    僕たちのホワイトーデーは、互いの存在を確かめ合う夜となるだろう。    白い吐息と白い雪。  寒い夜だから……  夜はふたりのぬくもりを重ねたい。 『僕たちのホワイトーデー』了  

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