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恋心……溢れて 11
明日から、あっという間にゴールデンウイーク突入だ。
十日程前に我が家にやってきた瑞樹との同居生活は、順調だった。
一緒に過ごして初めて知ることもいくつかあったが、どれも愛おしいものばかりで、思いだしてはニヤつく日々だ。
今まで我が家に何回か泊まったことはあったが、毎日となると今まで見えなかったことが、どんどん見えて来るものだな。
瑞樹はとにかく綺麗好きだ。特に好きな家事は洗濯のようで、週末には必ずシーツを洗う。俺はお陰で寝坊出来なくなったが、洗い立てのシーツは格別なので協力している。
掃除機もこまめに毎日かけてくれる。これは俺が一番苦手なことなので助かる。いつも綿埃が舞っていたのに、どうだ!今は髪の毛すら落ちていない。
整理整頓も好きなので、芽生の部屋の散乱しているおもちゃを、分類化して棚にしまう癖をつけてくれた。そういうきめ細かい指導は俺は苦手なので助かるよ。
おかげで家の中はすっきりで、様変わりした。
「パパ、おやすみなさい」
「おお、今日はひとりで眠れるか」
「んーだめ。おにいちゃんがいないと眠れない」
「くすっいいよ。今日はどうしようか。僕のベッド? それとも芽生くんの?」
「えっとね、お兄ちゃんのベッドがいいな」
「おいで。宗吾さん、すみませんが、今日も……そういう訳なので」
「うっ……分かった。お休み」
すまなそうに頭をペコッと下げた瑞樹が、芽生が手をつないで行ってしまう。
おおおお、行ってしまうのか。今日も……
最近の芽生は、少し異常な位、瑞樹にべったりだ。
まぁ……今まで俺とふたりで年の割に甘えたことも言わずに頑張ってきたし、実家の母にも高齢なこともあり母親のように無条件に甘えられなかったからなのか。
この件について瑞樹と話しあったが、「芽生くんの気が済むまで、とことん付き合ってみます」という返事をもらっていた。
もちろん嬉しいさ。瑞樹にとっては血のつながらない子供なのに、実の息子のように、そこまで愛してくれて。
どうやら芽生対応モードの瑞樹には性欲というものが消滅してしまうらしい。最初は夜中にそっと抜け出して、俺のベッドに来てくれるかと期待していたが、それは一度もなかった。
芽生と手をつないだまま、瑞樹も深い眠りに落ちていく。その寝顔はまるで瑞樹も子供に戻ったみたいなあどけなく、迂闊に手を出せないでいた。
だから、いつもそのまま朝までぐっすりだ。
おかげでせっかく同居を始めたというのに、俺たちのそっち方面は、またもや……ずっとお預け状態だ。
あーこんなことなら、あの日、瑞樹の部屋を訪ねた時に、最後まで抱いておけば良かったな。悶々とした下半身に苦笑する。俺……いい年してこんなになって。あぁせめて君を抱きしめたまま朝を迎えたいよ。
****
宗吾さん……すみません。
彼の視線を背中に感じ、心の中で詫びた。
宗吾さんには申し訳ないけれども、最近、芽生くんの様子が少しだけ変だ。だから僕も些細な変化も見逃したくなくて、芽生くんが望む限り一緒に眠ってあげたかった。
「お兄ちゃん、夜になるとボクこわくなっちゃうんだ。男の子なのにダメだよね」
「いいんだよ。僕が傍にいるから安心しておやすみ」
「うん。あのね……」
「何かな? 」
僕にも分かるよ。夜って怖いよね。夜って人恋しくなるよね。
でもそれだけじゃない。ここ最近……何か言いたくて言えないようだ。
「……お兄ちゃん、ごめんなさい」
「ん? どうして謝るの? 」
「うーん……いろいろと」
いつもハキハキしている芽生くんにしては、曖昧な返事。
よく僕にこうやって謝るのは何故だろう。
「芽生くん、幼稚園で何かあった?」
「えっ、何もないよ」
「そうかな。僕には何でも話していいんだよ」
「う、ん、もう寝ようー」
芽生くんが夏樹のぬいぐるみを抱きしめてそそくさと眠ってしまった。
そのあどけない可愛い寝顔を見守ってあげた。
今宵は……明日からゴールデンウィークに入るのでゆっくり宗吾さんとお酒でも飲んでと思ったが、こんな状態の芽生くんの傍を離れることが出来ない。
やっぱり幼稚園で何かあったのかな。明日には宗吾さんに相談してみよう。コータくんのお母さんにそれとなく幼稚園での様子を聞いてもらった方がいいのかも。
****
カーテンの隙間から漏れる明るい日差しが、僕の目覚ましだ。
宗吾さんが用意してくれたこの部屋のカーテンの色が特に好きだ。こうやって幼い芽生くんと寄り添って眠って、朝一番にカーテンを見ると、まるでここは大沼の子供部屋のような気分になってくる。
僕が生まれ育った場所は、僕のエネルギーの源でもある。
今頃……あの部屋はどうなっているだろう。セイの息子が大きくなったら子供部屋にして欲しいと願い出てよかったと思う。
あそこは記憶の中で残ればいい。僕には今、この部屋があるのだから。
このマンションは高層階だけあって、日当たり抜群だ。そのせいもあり、今日は休みなのに、いつもの習慣で6時台に目覚めてしまった。
洗面所で顔を洗ってリビングに行くとまだ宗吾さんは起きていなかった。カーテンも閉まったままだ。机にはPCが置かれたままだし。
ん……? ソファを見ると宗吾さんが転寝をしてしまっていた。しかもテーブルにはビール缶が。
「おはようございます。宗吾さん」
「お、瑞樹おはよう」
「またこんな所で眠って、風邪ひきますよ」
「あーここソファか」
「ビール飲んで、そのまま?」
「そうみたいだな」
僕、宗吾さんに寂しい思いをさせている。きっと―
「あの、すみません」
「謝るなって、芽生のことが心配なんだろう」
「はい、やっぱり幼稚園で何か心配ごとがあるような気がして」
「わかった。今日から休みでバス停ママに会えないから、あとでコータくんママに電話してみよう」
「あっ、なんで僕の考えていることが分かるんですか」
「それは君のことが好きだからさ」
そこで、チュッとキスをされる。
「流石ですね」
だから僕もキスをする。
「いつものがいい」
「くすっ、はい」
お・は・よ・う!のキスが、僕たちの朝の欠かせない挨拶になっていた。
「旨いな。今日は休みだから、もうちょっとな」
「はい」
ソファの背に隠れるようにしゃがんで、僕は宗吾さんからの口づけに身を任せる。
顎を掴まれ後頭部にも手をまわされ、逃げられないように固定された状態で受け続けると、変な気分になってしまう。
こんな朝から、こんな気持ちになっては駄目なのに。
宗吾さんとあれから10日、そろそろお互いに限界なのかもしれない。
「朝から君がもっと欲しくなってしまった」
「……どうしよう、僕も……同じです」
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