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花束を抱いて 3

 深まる口づけ、淡い口づけ、優しい抱擁を、繰り返してもらった。  普段はどこまでも男らしく精悍な印象の宗吾さんだが、僕を抱く時はどこまでも優しい。  愛に満ちている……そう感じる営みだった。  だから好きだ。あなたが好きだ。  僕にとって新しい1年が始まる幕開けは、宗吾さんを躰の奥深くに受け留めることから始まった。  去年はまだ出逢ったばかりで、宗吾さんとこんなにも深い関係になるとは思ってもみなかった。  日付を跨ぎ年齢を跨いで……愛されて思うことは、ただ一つ。  この世に生まれて来てよかった。  生きていて良かった。  宗吾さんに出逢えてよかった。 「俺達……今、同じこと考えているな」 「はい……きっと」  額をコツンと突きあわせ、微笑みあった。  なんて優しい時間なんだろう。  函館旅行の余韻に浸りながら、こんなにも優しく抱かれるなんて。  事後も、やわらかな余韻に、ふたりで浸った。  裸の肌を触れ合わせると、何ともいえない温もりとしあわせが生まれ、ホッとした。  満ち足りた心地で息を吐くと、宗吾さんが優しく胸に抱きしめてくれた。 「瑞樹、しあわせそうだな」 「はい、しあわせです」  僕が……こんなにも息を吐くように自然に、この台詞が言えるなんて──  感慨深くて、思わず涙が浮かんでしまった。 「また泣く」 「あっ、すみません」 「また謝る」 「あっ」 「いいよ、瑞樹らしい」  彼が舌先で目元を拭ってくれる。  涙は消え去り、彼が触れた場所に温もりだけが残る。  ほっとしたのか、眠気を感じて疲れが急に押し寄せてきた。 「眠くなったか」 「……少しだけ」 「もう、休め」  宗吾さんが指の腹で僕の目元を拭い、頬を撫でてくれた。  それから少し汗ばんだ髪を優しく……僕が寝付くまで何度も何度も梳いてくれた。   ****  胸に抱く瑞樹が寝入るのを、静かに見守った。  眠そうな仕草をし出してから、あっと言う間に寝息を立て始めてしまったな。  さっきまでの色香はすっかり消え去り、幼子のような寝顔になっていた。  君は……すごいよ。  どれだけ俺を信頼し、俺を愛し、俺に躰の隅々まで明け渡してくれるのか、数字では測れないものを与えてくれる。  君の明るい栗色の髪の毛が弄るのが好きで、眠ってしまってからも指に巻き付けたり撫でたりと愛撫し続けた。  俺は瑞樹となら、こんなにも繊細になれるのか。その事に驚くよ。  今までの我が道を突っ走ってきた人生とは、真逆の生き方を楽しんでいる。  ずっと自分の快楽や感情優先だった俺は、変わった。  瑞樹を抱くと、それを顕著に感じる。    彼に気持ち良くなってもらいたくて、必死だもんな。  瑞樹の寝息、瑞樹の身じろぎ、ささやかな音すらも、今は愛おしい。  彼が醸し出す音に耳を澄ましているうちに、俺も眠くなってきた。  やがて気が付くともう朝になっていた。  瑞樹の誕生日を刻むために枕元に置いていた時計を見ると、もう7時前だった。  旅行帰りで疲れていたのに、お互い激しく動き、ぐっすりだったわけか。  芽生が起きる前に早く服を着ないと。  起き上がると、ベッドの振動で瑞樹も目を覚ましたようだ。 「ん……あっ、あの、おはようございます」 「ん、おはよう」  そのままお互い自然に、『お・は・よ・う』のキスをした。   「瑞樹はまだ横になっていろう。まだ躰がキツイだろう」 「いえ、もう大丈夫です」  瑞樹も起き上がったが、やはり少し辛そうに顔を歪めたので、俺の胸に背をもたれさせてやった。 「宗吾さん……少し、腰が痛いです」 「すまん」 「大丈夫ですよ。こうしていれば」  甘えているのだ。そう思うと愛おしさが込み上げて、彼を再び背後から強く抱きしめてしまう。 「今日は……いい1日になりそうですね」  そう言いながら振り向いた笑顔が、五月の空のように澄んで爽やかだった。  うっすらと桜色に色付いた唇に、函館の桜を思い出した。  俺に抱かれた瑞樹の顔があまりに綺麗で、なんだか照れくさくなって、返事の代わりにまた唇を塞いでしまった。 「あっ……」  まずいな。これではまた繰り返しだ。そう思うのに、君との甘美な口づけは止まらない。 「宗吾さん、もう──」 「誕生日だから特別だ」 「それ、何か変です……」 「いやか」 「ずるいです」  再びシーツに押し倒した君を見下ろすと、甘い瞳で俺を見つめ返し、そっと目を閉じてくれた。  口づけを深めると彼が身じろぎする。  その度に甘やかな香りが生まれる。 「今日は……どこに行きたい?」 「宗吾さんと芽生くんと過ごせる場所なら……どこでも」    本心で言ってくれるのが分かるから嬉しい。  瑞樹の言葉に、裏表はない。 「特別な何かではなく、当たり前の日常が……僕は一番嬉しいです」  家族を失ったことのある君だからの言葉だ。 「あぁ、いつもの1日を君に贈ろう」 「はい……ぜひ!」    

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