350 / 1737
紫陽花の咲く道 2
すぐに答えることが出来た。
「君たちは……家族なのかな」
「……そうです」
宗吾さんは、僕が即答した事に、多少驚いているようだった。
「やっぱりそうなんだね。あの日君が電話していた相手は彼だったのだね」
「はい、僕らは一緒に住んでいます」
「そうか、いやすまない。急にこんなことを聞いて。実は……僕の兄もそうだったんだよ。同性の相手がいて、この中庭でこんな風に白薔薇が咲く日に内輪で結婚式を挙げたんだ」
「あっ……だから……」
そうか、そうだったのか。
雪也さんに対して抱いていた、そわそわとした気持ちの落ち着く先が、やっと見つかった。
「この白薔薇はね、僕の兄『柊一《しゅういち》』の『柊』と僕の名前の『雪』から取って、『柊雪《しゅうせつ》と、兄の恋人が名付けてくれたんだ」
なるほど、この薔薇が僕の心を掴む意味が分かった。
「美しい名に恥じない、美しく気高い花姿ですね。僕はこの白薔薇が大好きです」
「そう? 嬉しいよ。僕は兄の弟だったが、二人の子供のように育てられてね……だから君たちの息子さんがとても近しく親しく感じてしまってね」
「そうだったのですね」
「そうだ、薔薇の苗を持っていくかい? 君に分けてあげたいんだ。フラワーアーティストの葉山瑞樹くんに」
「よろしいのですか」
「あぁ育ててみてくれないか。君たちの家族の愛で」
なんとも不思議な縁を感じる。
長い月日をかけて育ったこの白薔薇には、雪也さんの大切な思い出が沢山詰まっている。そんなに大切なものを株分けしていただけるなんて、心が弾む申し出だった。
別れ際、白薔薇の苗木を抱いた僕に、雪也さんが更に嬉しい提案をしてくれた。
「君たち……結婚式はまだ?」
「え!」
そんなことを聞かれるとは思っていなかったので、激しく動揺した。一方、宗吾さんは、はっきりと断言する。
「まだですが、いずれちゃんとしたいと思っています。まだ日本では難しいですが、きちんと俺の中でけじめをつけたいと考えています」
「そうだね。もしもその時はこのレストランを使うといいよ。いつでも貸し切りにしてあげるからね」
「本当ですか。ありがとうございます。最高です!」
宗吾さんが胸のうちで、そんな事まで考えてくれているとは知らなかったので、驚き入ってしまった!
僕はそんな事までは望んではいけない身分だと思っていた。もうここで、この立ち位置で十分幸せだと思っていたから。
「じゃあ私はここで」
「今日はありがとうございます。またお目にかかりたいです」
「ぜひ会おう。君たちがしあわせな姿を見せて欲しい」
別れは少し名残惜しかったが、きっとまた縁がある。きっとまた再会出来る、そう思うと寂しくはなかった。
駐車場に行くと、隣に駐車しようとしている濃紺の車がいた。
手前で立ち止まって見守っていると……停車した車の助手席のドアが開き、軽やかに男性が降り立った。
その人の顔を見て、ハッと息を呑んだ!
「えっ!」
ともだちにシェアしよう!