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夏便り 4

 カーテンに包まれ、宗吾さんからの熱烈なキスを受け続けた。 「ん……んうっ……」  この部屋はレースのカーテンを室内側にしてドレープカーテンを窓側へ吊るすフロントレーススタイルになっているので、僕が動けば動く程、柔らかいレースが躰にまとわりついてくる。  まるで女性のドレスのように、ふわふわと…… 「……男の瑞樹がいいんだよ。俺は」  まるで僕の仄暗い心を見透かしたように、宗吾から言われて恥ずかしくなった。    今日……夏祭りで浴衣姿の女性が宗吾さんの傍に立つと、とてもお似合いに見えた。浴衣姿だと女性が、より女らしく見えるから、気になってしまった。  僕も宗吾さんより背も低く華奢だが、女性とは全く違う体つきだ。丸みもなければ触り心地だって硬い。 「おい、瑞樹? 馬鹿だな、さっきから何考えている?」 「すみません……浴衣の女性にあてられたみたいです」 「ん?」 「だって宗吾さんと並ぶとお似合いで……うっ……」  こんなことで、泣きべそ?   僕はどうしちゃったのか。 「おいおい、ちょっと待てよ。あー泣くな。俺、どうしたらいいんだ? 俺は浴衣の女性が真横にいても、瑞樹の事ばかり探してしまうのに。いつも君の事で頭が一杯なのに……」 「うっ僕、変なこと言ってすみません。こんなに欲張りではなかったはずなのに」 「あー可愛いな。そうか、これって瑞樹の我が儘か!いつも聞き分け良すぎるのは芽生だけじゃないよ。瑞樹もだ。瑞樹だって今までしてこなかった分、自由になれよ!」  宗吾さんと言う人は、なんと懐が広く大らかなのか。  もう27歳にもなる僕に、そんなことを……  やっぱり泣けてくる。 「さぁ俺に沢山我が儘を言ってくれよ」 口づけの合間合間に誘導され、ずっと言い出せなかった言葉が込み上げてきた。 「う……僕も……浴衣を……着てみたかったです」    自分でも驚いてしまう。  こんな事、口走るつもりなかったのに! 「浴衣って、まさか女物?」 「ちっ違いますよ。男物です」 「だよな。よかった。俺も断然そっちがいいんだ」  僕には女装をしたい願望はない。  宗吾さんも同じ気持ちのようで安堵した。  男の僕をそのまま愛して欲しい。  僕を僕のまま……愛してもらう。  それが一番嬉しい事だ。  自分で言った事なのに、急に恥ずかしくなってしまった。 「あ……あの、やっぱり、今のは聞かなかった事にして下さい」 「いやバッチリ聞いたぞ」 「もうっ――」  宗吾さんは僕の動揺とは裏腹に、とても嬉しそうだった。 「買いに行こう! 俺も今日ずっと思っていたよ。瑞樹に清楚な浴衣を着せたら、さぞかし似合って綺麗だろうなって」 「本当に?」 「あぁ芽生にも買ってやりたいし、よし早速、明日行こう」 「宗吾さんって……やっぱり行動力ありますね」 「それが取り柄さ」  コツンと額を合わせて笑いあった。 「ベッドに行くか。それともここで」 「絶対、ベッドがいいです」 「そうだな。俺にもご褒美をくれ」 「くすっ焼きそばの屋台のお仕事、お疲れ様でした」 「もう腹ペコだ」 「え? でも、さっき焼きそばのお土産を沢山食べたのに?」 「可愛いね。君に飢えてるのさ」  ベッドに仰向けに寝かされ、宗吾さんにガバッと抱きしられた。 「待ち遠しかった!」 「そ、宗吾さん、明日は浴衣を買いに行くから……ほどほどにしてください!」 「心に留めておく」 「わっ……ちょっと待って下さい。もう、最近しつこすぎますよー」  口では抵抗しつつ、沢山愛してもらいたいと願い、甘える夜だった。   ****  翌朝、瑞樹よりも先に起きた。  昨日彼を抱いた興奮が、まだ躰の隅々に残っているのを感じていた。  そして、まだ俺の横でぐっすりと眠っている瑞樹…… 「君の寝顔って、結構あどけないんだよな。あー可愛いな」  幸せそうに眠る柔らかな頬をツンツンすると、自然に笑みが漏れてしまう。 「やっぱり、ほどほどに出来なくて……ごめんな、君が可愛すぎるのが悪い」  先にシャワーを浴びていると、芽生が起きて来た。 「パパ、おはよう。あ、いいな、おふろーボクも入りたい」 「なんでだ?」 「おきたら、汗びっしょりできもちわるいんだもん」 「本当だ。汗疹が出来るといけないから、おいで」 「うん」  パジャマを脱ぎ捨てた芽生が、浴室に勢いよく飛び込んで来た。まだお腹がぽっこりの可愛い幼児体型に、目を細めてしまう。 「パパーきのうのおまつりたのしかったね。こんどは花火がいいなぁ」 「それもいいな。浴衣を着て行こう」 「でも……ボクもってないよ」 「今日買いに行くぞ」 「え、本当? わーいわーい!」  嬉しさで勢い余った芽生が、裸のままリビングに飛び出してしまった。 「おい待て!ちゃんと服着ないと」 「まだいいよ~だって暑いもん」 「ははっ、それは分かるが」 「パパだっておなじだよ」 「それは芽生を追いかけているからだろう」  お互いに裸のまま居間を駆け回っていると、寝室の扉が静かに開き瑞樹が目を擦りながら起きて来た。 「ん……おはようございます。あの……さっきからドタバタしてますが……下から苦情がきちゃいますよ」 「おっと、そうだな」 「パパ、ストップ!」 「あれ? 芽生くんもいたんですか」  瑞樹がパッと顔を上げて、途端にギョッとした表情になった。 「な、な、なんで!! 朝から二人とも裸なんですかー! それに床、濡らさないでくださいよぅ……掃除しないと。ううっ、まだ眠いのに……」  瑞樹の声が、虚しくリビングに響いた。 「えーでも、おにいちゃんってば! おにいちゃんも半分おなじだよ」 「何言って? 僕は、ほら、ちゃんと着ているよ」  瑞樹は自分の胸元を慌てて見つめパジャマを確認し、ホッとしていた。    うむ、確かに……  パジャマは着ているもんな。  でも俺のパジャマで、上のみだけどな。 「あっ、え?わぁっ……!!!」  俺の大きなパジャマの、上のみ。  そこからすらりとした生足が伸びていた。  やっぱり太腿に色香があるなぁ……  でも大丈夫、パンツはちゃんと履いているぞ。  

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