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夏便り 14

「次は西瓜を食べましょう」 「わーい!おばーちゃん、ボク、スイカだーいすき! うわぁ大きい~まるごとだ!」  花火を終えて部屋に戻ると、食卓に大きな西瓜が丸ごと置かれていた。 「美智さん、悪いけれども切ってもらえるかしら」 「えぇお義母さん、任せてください」 「あのっ僕も手伝います」 「瑞樹くん、ありがとう! えっと、私ね、最近とっておきの切り方を習ったばかりなの。まずは見ていてね」 「はい!」  まず西瓜を1/6にしてから、それを斜めにカットし、次は反対側を斜めに……全てが三角形になるように切っていく。 「出来たわ! こうすると全部真ん中になるのよ。端っこがないから、どれを食べても甘くて美味しいの」 「凄いですね。今度家でもやってみます。こうすれば、みんな平等でいいですね。僕の家では、いつも甘い真ん中を兄と弟が取り合って喧嘩になっていたので、今度教えてあげようと思います」  瑞樹くんがニコッと甘く微笑んでくれる。 「ほう、君の兄弟って、そういう感じなのか」 「はい、賑やかで楽しい兄と弟がいます」 「そうか、そうか」  まぁ素直で謙虚で、本当に可愛い子なのね。  こっちが照れちゃうじゃない。  なんだろう、母性本能がくすぐられるなぁ。  彼に接した人が皆、メロメロになるのも分かるわ。  我が夫、堅物の憲吾さんだって、あーあー、あんなに口元を緩ませちゃって。  そして何より宗吾さん、あなたは本当に幸せ者ね。  可愛い芽生くんだけでなく、こんなに可愛い瑞樹くんまで傍にいてくれて。 「美智さん、今度は僕が切ってみてもいいですか」 「もちろんよ。ふふふ、私は瑞樹くんのお姉さん気分よ~可愛い弟が欲しかったので嬉しい」 「お姉さんですか! そんな風に言って下さって嬉しいです……僕も姉が欲しかったです」 「本当に? 嬉しいわ」 「おいおい、俺も可愛い弟が欲しかったのだが」 「あ、はい! 」  まぁいやだわ……憲吾さんまで、ちゃっかりと。 「さぁどうぞ!」 「うわぁぁ、スイカのお山がたくさんあるー! ボク、とんがったのすきー!」  大皿に並ぶ西瓜を、皆で勢いよく頬張った。  芽生くんも大喜びね。  子供の無邪気な笑顔って可愛い。  私も早く赤ちゃん授かりたいな。  久しぶりに過ごすお盆らしい時間に、私も憲吾さんとギクシャクしてから、この家にしばらく寄りついていなかったのを反省した。 「お義母さん……私たちが東京にいる間は、もっと頻繁に顔を出しますね」 「美智さんありがとう。なんだか一気に賑やかになって少し戸惑っているわ。お父さんがなくなってから、いつも一人だったので……」  お義父さんが亡くなった後も、いつもシャンとしていたお義母さんの、寂しい本音に切なくなってしまった。 「母さん、俺たちも顔を出すよ」 「まぁまぁ一気に病人扱いね。まだまだ私は大丈夫よ。でも一つだけ頼みたい事があって」 「何?」 「お庭の手入れだけは流石に厳しいみたい。倒れた日も実は朝から庭にずっといて、疲れたのもあったのよ」 「それなら、ちょうど話していた所だよ。瑞樹の得意分野だし、彼に任せてくれないか」 「まぁ嬉しいわ。瑞樹くんとは花の感性が合うので、頼りにしているわ」  素敵な提案と申し出だわ!  新しい家族の瑞樹くんに、こうやって居場所が出来ていくのね。  瑞樹くんも頬を染めながら頷いて、嬉しそうな様子。 「お母さん、僕は造園の方は分からない事も多いのですが……弟がその職についているのでアドバイスしてもらいます。ぜひ僕にお母さんが端正込めて育てた庭の手入れをさせて下さい」  うんうん、そう!   いい調子よ。頑張って……    本当に彼って、心から応援したくなる人だわ。  ****  函館、葉山生花店── 「広樹、食後に西瓜でも食べない?」 「おう!いいな」  しかし今年のお盆は、いつにも増して寂しいな。  瑞樹がいないのは例年の事だが、潤までいないのには慣れないぞ。  五月蠅く我儘な弟だが、なんだかんだ言っても、居れば賑やかで楽しかった。  五月に帰省したからお盆は駄目だと、事前に聞いていた。  しょうがないが……なんだか物足りない。  ぼけっと無意識で西瓜を切っていたら、大量に切り過ぎてしまった。 「まぁこんなに切ったの? ふたりで食べ切れるかしら」 「ははっ、つい癖でな」 「そうね……広樹と瑞樹と潤、息子が全員揃っていた時は、皆でよく食べたものね」 「あぁ」  あ、やばい……!  悲しい思い出を見つけてしまった。  そう言えば……瑞樹は、いつも遠慮して端っこばかり食べていたな。  潤が真ん中の甘い所ばかり狙うから、いけないんだぞ。  いやいや、そういう俺も同罪だ。  食い意地張って、瑞樹の事を顧みていなかった。  あー今頃気づいてしまったな。  瑞樹、ごめんな。  いつも俺たちが食べるのを見てから、そっと端っこに手を伸ばしていた、いじらしい弟。  幼い瑞樹の事を思い出して、しんみりしちまった。  瑞樹ぃ……元気でやっているか。  たまには、兄ちゃんのこと思い出せよ。  すると電話が鳴ったので、母の会話に耳を澄ました。 「あら……瑞樹? 今、宗吾さんのご実家にいるのね。何しているの? まぁそっちも西瓜を? こっちもちょうど広樹と食べる所よ」  なんだって!   瑞樹から電話なのか。  タイムリーだ!  早く代わって欲しくてウズウズしちまう。  可愛い、可愛い弟の瑞樹!!  幸せに過ごしているか。  あちらのご家族に、沢山可愛がってもらっているか。  聞きたい事は山ほどあるが、瑞樹に甘い声で『兄さん!』と言われた途端に、きっと吹っ飛んでしまうだろう。  母さん……早く早く!

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