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心の秋映え 2
あっという間に、広樹兄さんの結婚式前日になっていた。
「宗吾さん、やっぱり僕、駅まで迎えに行ってきますね」
「ん? 潤はもういい大人だ。ここまで一人で来られるだろう?」
「……ですが、少しマンションへの道順が分かりにくいので」
「はは、やっぱり瑞樹らしいな。そんなに気になるなら行っておいで」
「はい!」
「気を付けてな」
軽井沢から潤が上京し、ここに泊まる。
宗吾さんのマンションに呼ぶのは初めてなので、道が分からないのではと心配になってきた。
それに五月に会ったばかりなのに、早く会いたくなってしまった。
今までは会いたくなくて避けていたのに……
嘘みたいだ、こんな気持ちになれるなんて。
本当に、僕達はようやく兄弟らしくなって来たんだね。
「……そろそろかな」
新幹線で東京駅に着いたと連絡はもらっていたので、腕時計を確認しながら改札から出て来る人をチラチラと見つめた。
遅いな、もしかして何か連絡入っているかな。
スマホを確認していると、ポンっと肩を叩かれた。
「兄さん、どこ見てるんだ?」
「え、あ……潤なのか」
「そうだけど?」
びっくりした! 印象が全然違うから。
「か、髪の色……」
「あぁ染める時間が勿体ないので、黒に戻したんだ。ヘンか」
「いや……似合っているよ。あれ? もしかして背も伸びた?」
「そう? 前は猫背だったけど、毎日上司から注意されて姿勢が良くなったのかもな」
「そうなのか。でも実際にも伸びたみたいだよ」
「今は煙草も酒もやってないからなぁ。まぁ空気がいい場所で健康的に過ごしているよ」
驚いた! 1年前からは考えられない程の外見の変化、雰囲気の変化に、ただ茫然としてしまった。
それに広樹兄さんの若い頃に似ているような……いやもっとカッコイイかも?(うわっごめん!兄さん)
「潤って……こんなに広樹兄さんに似ていたっけ?」
「あーそれは言うな。なんか髪を黒くしたら……瑞樹より老けて見えないか」
「それか! 確かに」
「ははっ兄さん、少し、口悪くなった?」」
「ご、ごめんな」
「いや、それも悪くない。なぁもっと本音をポンポン言ってくれよ」
「う、うん」
「なんかこんな風に話せるのっていいな。楽しい」
そうか……僕も宗吾さん暮らすようになってから、今までだったら心の中に留めていた事を、口に出せるようになってきたかもしれない。
潤がそれがいいと言ってくれるのが、また嬉しかった。
「それにしてもすごい荷物だな。手伝うよ」
「いいよ。こんなの朝飯前さ!」
潤は背中にリュックを背負い、両手に大きな荷物を持っている。
北海道に1泊行くだけなのに、どうしてそんな大荷物を?
重さを感じさせずに颯爽と歩く姿に、見惚れてしまった。
「おーい、何してる? マンションはこっちだろう?」
「道、分かるのか」
「当り前だよ。ちゃんとルートは事前に確認してある」
「……そうなんだ」
なんだか拍子抜けだ。
潤……って、こんな子だったか。
会うたびに進化している!
「兄さん、さっきから一体どうした?」
ぼんやりしていたら置いて行かれてしまったので、慌てて追いかけた。
なんだか……なんだか……
あっ、そうか!
「潤、今、すごくモテるだろう」
口に出してようやく腑に落ちた。
僕……潤がすごくカッコよくなっていたから、戸惑っているようだ。
まだまだ考えも行動も子供じみていると思っていたのに、これは反則だ。
「まぁな。こう見えてもお客さんからよく声をかけてもらえるんだぜ。記念撮影を強請られたりさ」
「あぁ、それ分かる! 僕も女性だったら声をかけるよ! だって……」
「おっと兄さん、それ以上言うな。オレが宗吾さんに後でヤラレルから」
「そ、そうだね」
(宗吾さんには今の言葉は内緒にしないと)
どっちが兄でどっちが弟か分からない状態で、マンションに辿り着いた。
****
「ここか……ここで暮らしているんだな」
潤が感慨深げに目を細めて、僕の住むマンションを見上げていた。
「良かったな。日当たり良さそうだ」
「うん!」
都会のコンクリートの建物だけど、眼下に川が流れ、日当たりは抜群だ。
本当は土の上で暮らしたいけれども、都心ではそれはかなりの贅沢だ。
だから、宗吾さんのご実家の庭の手入れをする時間は僕にとって憩いだ。
インターホンを押すとすぐに宗吾さんと芽生くんが出て来てくれた。
芽生くんは、潤を見て、目を丸くしていた。
「あれぇ……おにいちゃんには、ほかにもきょうだいがいたの?」
潤の好感度UPな姿は、芽生くんを驚かせたようだ。
「くすっ芽生くんってば、違うよ。弟の潤だよ。ほら函館で5月に会ったよね」
「えーべつの人かとおもったよー」
「やぁよく来たね」
宗吾さんは平然としていたが、僕の少し興奮した顔をジドっと眺めていた。
まさか頬赤くなっていないよな。
確かに潤の言った通りかも……
(宗吾さん!! 僕は弟の成長に、ただ興奮しただけですよ?)
焦って……心の中で必死に訴えてしまった。
「なるほど、瑞樹は本当に顔に出やすいな。くくっ」
顔色をコロコロ変える僕を見て、宗吾さんは楽しそうな明るい笑顔を浮かべていた。
「俺も潤には負けられないな。だが張り合いがあるのはいい事さ。燃える!」
(な、何にですか!)
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