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心の秋映え 3

「あの、宗吾さん……潤はどこに寝かせたらいいですか」 「そうだな。特別に瑞樹のベッドはどうだ?」 「え? いいんですか」 「そうだよ。で、瑞樹は当然、俺のベッドな」  台所で洗い物をしながら宗吾さんに確認すると、そんな提案をされたので少し照れ臭くなってしまった。 「いやか」 「嫌じゃありません。っていうか、僕……最近は全く自分のベッド使っていないのですが」 「ははっ、だから貸すんだよ。潤に」 「……? とにかく今日は何もしないでくださいね、流石に弟がいる部屋では……あぁぁ」  また僕……余計な台詞を言ったような。 「そうかそうか。期待している所悪いが、最近の瑞樹は感じやすくなって、声を抑えられないから危ないもんな、うんうん分かるよ」 「ちょっ!」  宗吾さんと軽口を叩いていると、潤が風呂からあがったようだ。  脱衣場から僕を呼ぶ声がした。 「兄さん~喉乾いた~水ある?」 「あ、うん。ちょっと待って」  甘えた声が可愛いな。  見た目は大人びたが、こういう所は昔のままだ。  冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し届けに行こうとすると、宗吾さんに制された。 「おっと待った! 俺が届けるよ。瑞樹はここの片付けしておいて」 「あ、はい」 「それからアイツにはこっちな」 「でも潤、最近弱くなったみたいで、すぐに寝ちゃうかもしれませんよ」 「そうか! それは耳よりな情報だ」 「耳よりって?」 「潤はもう義弟みたいなものだから、俺が可愛がってやろう」    缶ビール片手に、宗吾さんは嬉しそうに脱衣場に消えて行った。  一抹の不安を覚えながら、僕はそのウキウキした背中を見送った。 ****  バスタオルで髪をゴシゴシ拭いていると、背後に気配がした。  瑞樹か! 「悪かったな~」  満面の笑みでクルっと振り向くと、宗吾さんが立っていた。 「な、なんで!」 「ふーん、お前なかなかいい躰してんな。それを瑞樹に見せるつもりで呼んだのか」 「ち、違うって!」  本当は少々やましい気持もあるにはあったが、この人にそれを言うと袋叩きにあいそうなので、貝になった。 「どれ? 俺が代わりに見てやろう。おおお、更に逞しくなったな~潤ちゃんよ。ほらビールだ」 「あうぅっ」  裸の胸の先っぽにキンキンに冷えたビールをあてられ、変な悲鳴をあげてしまったじゃないか。 「オ、オレになんて声出させるんだよぉー!」 「ははは、なるほどなぁ。まぁ飲めよ」 「あ……ありがとうございます」 「あれ? 急に礼儀正しくなっちまったな。ちょっとは尖がっていてもいいんだぜ?」 「オレは散々やらかしたから……もう」 「……そうか」  彼は今度は穏やかな大人の笑みで、オレの頭を撫でてくれた。 「お前はいい子だよ。流石瑞樹の弟だ」  しみじみと言われて照れてしまった。  そして胸の奥がじんとなるほど、嬉しかった。 「宗吾さんにそう言われると救われます」 「お前はまだまだこれからの奴だ。どんどん変わっていけばいいよ」 「ありがとうございます」  あなたの大事な恋人である瑞樹を陥れようとしたオレを、許してくれるのか。  自分が変わる事が最善だと思った道は、間違ってなかったのかもしれないな。  脱衣場で缶ビールを飲み干したら、急にクルクルと目が回ってきた。  軽井沢で働き出してから酒も煙草もやめていたからか、酔いが回って、その場に蹲ってしまった。 「潤! 大丈夫か」 「あ……瑞樹」 「なんだ1杯でこれか」 「パパー、もう、かわいそうだよ」    瑞樹の心配そうな声。それから宗吾さんの声も聞こえる。小さな芽生くんの声も……  ずるずると大きな体を引きずられるようにして、ベッドに寝かされた。 「潤、潤……聴こえる?」  瑞樹の甘く優しい声だ。  夢現でウンウンと頷く。  あー懐かしいな。この声……  昔から俺が悪いことしても、瑞樹はいつだってこんな風に優しい声で聞いてくれた。  いつも、いつだって! 「潤、大丈夫?」 「あーうん、もう寝る」 「そうか。ここ僕のベッドだけど遠慮なく使っていいからね」 「……え……瑞樹の?」  その一言に天にも昇る心地で、深い眠りにストンと落ちた。  普段瑞樹が眠っているベッドを借りられるなんて、最高だ。  東京まで迎えに来て、大正解だ。 **** 「実にあっけない幕切れだったな」 「宗吾さん……確信犯のように笑わないで下さいよ」 「悪い悪い。まぁ潤はビールの力で今日はぐっすり眠った方が身のためなのさ」  芽生くんを寝かしつけた後、宗吾さんのベッドに潜り込むと、すぐに彼の躰の下に巻き込まれてしまった。 「あ、あの……」 「ん? あぁ君にお休みのキスをしようと思ってな」 「でも、それならこんな姿勢じゃなくても」 「深いキスをしたいから」 「駄目ですって、それ!」  そう言いつつ……僕も宗吾さんに触れて欲しくなってしまったので、躰の力を抜いた。  閉じた瞼、頬、首筋、鎖骨、耳たぶ……  宗吾さんが僕を宝物のように、甘く甘く啄んでくれる。 「んっ、あっ──あっ」 「瑞樹、静かに。今日は近くに弟がいるんだから、なっ」 「んっ……でも……」  宗吾さんが尤もなことを言いながら、僕の胸をパジャマ越しに触れてくるので、声を我慢するのが大変になってきた。 「……そ、うくん、もうダメ……」 「あぁぁそれは今は言うな。その呼び方は俺を駄目にする」 「ですがっ──」  少しもじっとしていられないくて、宗吾さんに組み敷かれた躰をひっきりなしに動かしてしまう。 「あ……宗吾さんが……一番なんです。僕の宗吾さん」 「瑞樹ーそれは俺が先に言おうと思っていたのに……嬉しいよ。俺の瑞樹」 「あっ……もう……唇に触れて下さい……」  散々焦らされて、最後は自分から唇を重ねていた。  何度も何度も角度を変えて、お互いの唇を求め重ね合った。  キスだけでイってしまいそうになり、困惑してしまった。  さすがに今日は最後まではまずいから。 「俺たち……節操ないな」 「ですね。くすっ……では、続きは北海道で」 「1日遅れて君に会いに行くよ。明日は広樹の弟として、ゆっくり過ごせ」 「……宗吾さん、ありがとうございます」  彼の首に手をまわして、深く抱きついてしまった。  宗吾さんの決め言葉にメロメロなんですよ。  いつも僕は……

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