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心の秋映え 16

「うわぁすごい~ボクの大好きなポテトにソーセージにからあげもある!」    お子様コーナーの具材に、芽生が目をランランとさせている。 「宗吾さん、ここはバイキング形式のBBQなんですね」 「そうだ。好きなものを好きなだけ食べられるのは旅行の醍醐味だろう」 「くすっそうですね」 「おにいちゃん、これとってー」 「いいよ。いくつかな?」 「んーっとね」  瑞樹はすぐに幼児用のトレーを持って来て、芽生が指差すものを確認しながら次々に取ってくれた。  その様子を横目で見ながら、俺も自分が食べたいものを気ままに皿に載せていたが、はたと気づいた。  あー俺、また自分のことしか考えていなかった。 「あーコホン。瑞樹、君は何が好きだ? 取ってやるぞ」  瑞樹は一瞬俺が普段しない事をするもんだから、意外そうな顔をした。  こんな顔をさせているようじゃダメだな。  俺もまだまだ精進が足りんなぁ。 「いいんですか。えっと……じゃあジンギスカンを焼きたいです」 「へぇやっぱり地元っ子だな」 「東京ではなかなか食べられないので」 「俺も好きだし今度家でもやってみようか。最近はスーパーでも売っているらしいぞ」 「それ、いいですね、楽しみです」  瑞樹が嬉しそうに笑ってくれたので、俺もつられて笑った。  BBQと言っても、テーブルの鉄板で焼く簡易スタイルだった。 「なんだ。炭火じゃないんだな」 「観光地ですからね」 「うーむ、いつかキャンプに連れて行きたい」 「いいですね!」  肉の焼き係は、俺に一任してもらった。  瑞樹が申し訳なさそうな顔をするから「いいから、君は食べるのに専念してくれ」と促してやった。 「じゃあ……お言葉に甘えて、いただきます」 「いっただきますー!」  瑞樹はちょこんと芽生の隣に座って、俺が運んだ肉をモグモグ食べ出した。  可愛いな。俺が餌付けしているみたいだ。  何だか息子が二人いるみたいな気分になってきたぞ。  しかしさっきから芽生は唐揚げとポテトばかり頬張っているが……まぁ旅行だから無礼講だ。  それにしても、やっぱり『旅』はいい。  人の気持ちを、おおらかに伸びやかにしている。  都会の雑踏に紛れている俺たちには、こういう息抜きが大切だ。  さぁ日頃の仕事の疲れを癒してもらおう。  秋の北の大地に。 ****  昼食後は、ポニーに人参クッキーをあげるイベントに参加した。 「パパ、うーん、とどかないよぉ」 「どれ?」  芽生を柵の高さまで抱っこしてやった。 「見える!ありがとう!」  芽生がポニーの口元にクッキーを差し出すと、すぐにパクパク食いついてくれた。 「わぁ~食べてくれた! パパぁーかわいいね」 「あぁそうだな」 「芽生くん、宗吾さん! こっちを向いて下さい」    俺たちの様子を、瑞樹が抱えてきた一眼レフでパシャパシャと軽快に撮ってくれた。  彼の横には、同じように我が子の餌やりを撮影する若い父親が何人も並んでいた。  その中でも、瑞樹が一番若くて可愛いなと、ニマニマしてしまった。 『ねぇ、あそこの若いパパさん、カッコ可愛いいね。きっとお子さんも可愛いだろうな』 『あんな人が旦那さんだったらいいね』 『ねぇ~周りの人と比べて輝いているよね』 『なんだか彼、いい匂いしそう!』 『やだ、近寄ってみる? ふふふ』  近くにいたママさん同士のグループが瑞樹を見て、噂話をしていた。  むむっ! これは大沼で瑞樹が女性に誘われた時と同じだ。危険な香りだぞ。しかしまぁ最近は……女性の方が積極的だな。 『ねね、撮ってもらわない? 写真撮るの上手そう』 『いいね、あのぉ~♡』  はぁ……やっぱりまたそうくるのか。  ううう、認めよう。あぁ認めるさ!  王子様キャラな瑞樹は未婚既婚問わず……女性によくモテる。  本人は至って自覚ないが、俺が知っているだけでも何回も声を掛けられている。  男の闘争心が芽生えてしまうんだよな、こういう時って。  煽ってくれたな! 『すみません。写真を撮ってもらえませんか』 『……あ、はい。いいですよ』  瑞樹は一眼レフを首にかけて、俺をチラっと見て一礼した。 (いいですか)と問われているようだ。  だから広い心で(いいよ)と頷いた。  瑞樹は律儀だ。  彼は本当に用件だけを済まして、逃げるように俺の元に戻ってきた。  遠くで女性たちが悔しそうな顔をしている。 『……取り付く島もないね』  そうだろう、そうだろう。(大きく頷きたい気分だ) 「瑞樹、そろそろ行くぞ」 「あっはい」  瑞樹は何も気づいていないようで、俺と芽生だけを見つめてくれている。だから何の心配も不安もないはずなのに、さり気なく肩を組んでしまった。  瑞樹も今日は開放的な気分なのか、当たり前のように受け止めてくれる。 「宗吾さん、僕……写真を撮るのが上手く見えるようです」 「へ?」 「実は……さっきみたいに、よく頼まれるので」  横を見れば……彼特有の面映ゆそうな優しい笑顔を浮かべ、手に持った一眼レフを愛おしそうに撫でていた。 「お母さんの形見……大事にしています。お母さんは写真を撮るの上手だったから、僕も少しは似たのかなとか……あ、すみません。なんだか自慢話みたいになって」  やばい、やばいぞ……  これは涙腺が緩む。  さっきまでの俺の邪念なんて吹き飛ばしてくれる。  いつだって瑞樹は。  瑞樹色の風が吹けば、俺たちはすぐに爽やかな世界に誘われる。  参ったな、本当に君は素敵な人だ。 「瑞樹は撮影が上手いよ。君に撮られるのは心地いい。優しく包んでくれるから……この旅行でも沢山撮ってくれ」 「はい!」 「でも瑞樹も一緒に写れよ」 「あっ……僕もたまに混ざっていいですか」 「当り前だ! 君がいないと話にならない」 「あっ、はい……!」  

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