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心の秋映え 21

 幸福駅からは一路、富良野を目指した。  今度は宗吾さんの運転だ。  芽生くんは車が動き出して少し経つと、居眠りしてしまった。流石にお腹一杯で疲れたのだろう。 「瑞樹、芽生は眠ったのか」 「はい、ぐっすりです」 「じゃあ君は景色を楽しんでくれ。ここから先の景色はいいぞ。君に絶対に見せたかったスポットだ」 「ありがとうございます」 「だいたい2時間位で富良野には着くよ」 「そうなんですね」    宗吾さんが教えてくれた通り、とにかく景色が素晴らしくて……僕は車窓をうっとりと見つめ続けた。  日高山脈と十勝の畑作地帯、東大雪の山並み…… 「秋は空気が澄んでいていいな。なぁ遠くに美瑛岳や十勝岳まで見えるだろう」 「えぇ広いですね。どこまでも広い……」  自然が織りなすコントラストに感動した。  函館よりも、もっともっと広い北の大地。吹き抜ける風も照らす太陽も、遮るものがなく自然の息吹をより近く感じる。花も木も牧場の草原も……皆、生命力溢れて眩しい。 「宗吾さん、この景色、最高ですね」 「あぁ十勝地方はいいよな。そう言えば、十勝ってアイヌ語で『トカプチ』だったな」 「なるほど、ここがあの絵本の舞台ですね」  六月に訪れた北鎌倉の美術館で、芽生くんに買ってあげた絵本を思い出した。 「『十勝』という地名はさ、十勝川をさすアイヌ語の『トカプチ』からだったな。『トカプチ』は『乳』を意味し、川口が二つ乳房のように並んでいることに由来しているなんてな」  宗吾さんは物知りだ。  一体その知識はどこで? 「ははは、キョトンとしているな。これはまぁクライアントからの受け売りだ。乳製品の会社から学ぶ事は多いな」 「なるほど!」 「そういえば昨日変な夢を見た」 「どんな夢ですか」 「うーん言ったら、怒られそうだからやめておくよ」 「え、何それ? かえって気になりますよ」 「駄目だ。絶対に怒る」 「そんな……僕はそんな簡単には怒りませんよ?」 「やだね」  思わせぶりな言い方だ。そう言われると聞きたくなってしまうのを知っていて……じゃあ、これならどうだ? 「そう、くん……もう、教えてくださいよ」 「うー可愛い頼み方で揺らぐな。芽生はしっかり寝ているか」 「? はい、ぐっすりと」  すぅすぅといつものように可愛い寝息を立てている。だから何を言われても大丈夫だ。 (っていうか僕は一体何を期待しているんだ!?) 「じゃあいいか。いやぁ……実はさ瑞樹の胸をちゅうちゅう吸っていたら、甘いミルクが迸る夢だったんだ」 「……へ?」  一瞬何を言われたか分からなくて、ポカンとしてしまったが、その後じわじわと恥かしさが込み上げてくる。  そ、そりゃ、宗吾さんに抱かれる時、いつも胸を吸われるけど!     男の胸なんて吸って……と最初は戸惑ったが、今ではそこは立派な性感ポイントになっていて……指先で弄られるとコリコリと硬くなるし、宗吾さんの口に含まれて転がされ吸われたりすると、甘い疼きとなって僕を喘がせる。 「……」 「やっぱ怒った? こっちに来てから美味しいミルクを沢山飲んでいるからかな」 「……い、いえ」  怒るというより、その様子を想像して、ドキドキしていた。 「みーずき? どうした? またトリップか」 「い、いいえ」 「くくく、起きた時ムラムラしそうになってヤバかった」 「も、もう。僕は景色を見ますので」  窓の外は少しだけ日が傾いて、僕の頬をオレンジ色に染めてくれた。  これならバレないかな。  僕が今夜……期待してしまった事。  はぁ~本当に宗吾さんは僕を駄目にする。 ****  16時前に、有名な観光畑に到着した。  ここは夏の北海道の人気観光スポットで、富良野ラベンダー畑として全国的にその名が知られている。  ラベンダーの見頃は7月上旬から中旬だ。だから今は咲いていないが、このファームではラベンダー以外にも様々な花畑があり、10月上旬頃までは美しい景色が見られるそうだ。  花を愛する瑞樹に、北海道ならではの広大な花畑を見せたかった。見渡す限りの花畑に佇む瑞樹は、きっと最高に可愛くて美人だろう。 「おいで」 「わぁ……これは、すごいです」 「わーパパ、お花畑についたんだね」 「ほら、二人とも寒いだろう。これを着ろ」  北海道は、東京よりもずっと涼しい。  この時期にはもう最高気温が14度前後、最低気温は10度程度で、夕暮れ時は羽織ものがないと厳しい。車のトランクから二人にお揃いのブルゾンを出して着せてやった。これは、俺が今回の旅行のために用意したサプライズだ。  瑞樹にはラベンダーを彷彿するライラック色、芽生には子供らしく大地のグリーン。 「ほら、並んで、着せてやろう」 「あの、なんだか僕まで子供扱いですね」 「そうそう。君はまだまだ可愛い子供さ」 「えっと……もうっ」  幼い頃……きっとなかなか甘えられなかった瑞樹を、まるで小さな子供のように扱うと、面映ゆそうに笑ってくれた。  俺好みのワンサイズ大きいブルゾンを着せると、ブカブカなのが可愛かった。 「なんだか、かなり……おっきい。あ、もしかして宗吾さん好みですか。これ」 「そうだよ。さぁ花畑に写真を撮りに行こう」 「くすっ……はい!」  3人で手を繋いで歩くと、霜が降りる頃までは見頃が続く広大な花畑があった。  四季咲きの花々が、澄んだ秋空に映えている。  山はもう間もなく雪に包まれるだろう。季節が冬への新たな頁を捲る足踏みをしているようなニュアンスのある季節だ。 「あ、アゲラタムですね。こっちはイソトマで、あの青いのはサルビアで、黄色いのがマリーゴールドですよ」  秋に咲く花は色味が温かく、木々の紅葉とマッチしていた。  瑞樹が口ずさんだ花の名前は殆ど知らないものだったが、心地良い秋の涼風のようにリフレインし通り抜けて行った。 「ここで写真を撮ろう」 「あ、僕が撮ります」 「またっ。さっき君も一緒にと言っただろう」 「でもカメラを置く場所がないのでセルフは厳しいかと、三脚を持ってくれば良かったですね。失敗したな」 「いや、スマホで撮ろう。ほらこの棒を使えば撮れるだろう」    さり気なく上着のポケットから手を出し伸ばしてみせると、ふたりとも目を丸くした。 「あ、セルカ棒ですか。こんなに小さいサイズもあるんですね」 「そうだよ。便利だろう。さぁ3人の思い出なんだから、3人で写るぞ」    俺たちは肩を寄せ合って、写真に納まった。 「なんだか旅行中のパパって、すごくいい。つぎつぎにおいしいものやきれいなものを見せてくれるし……そんなモノまで! すごい!」  芽生が俺を見上げて、キラキラと大きな黒い瞳を輝かしてくれる。 「だろ? パパも捨てたもんじゃないだろう」 「パパはサイコウにカッコいいよ! いつも!」  嬉しい言葉と共に、ピョンっとジャンプして抱きついてくれた。  ヒョイと高い位置で抱っこしてやると、芽生が声をあげて笑った。 「パパもおにーちゃんも、ボクのまほうつかいみたいで、カッコいい! ふたりとも、ダーイスキ!!」 お知らせ(不要な方はスルーでご対応下さい) **** こんばんは。志生帆 海です。 いつも『幸せな存在』を読んで下さり、温かなリアクションで創作の応援ありがとうございます。 今日はお知らせですが、9月22日~23日は、新規のお話の更新をお休みさせていただきます。 実はリアルで旦那さんが遅い夏休みをようやく取れましたので、家族旅行に行ってきますね。 行先はこちらのお話にも登場した神奈川の葉山です。Twitterで写真をUPすると思いますので、ご興味あればフォローして見て下さいね♡  お気軽にどうぞ TwitterID @seahope10 マシュマロで感想も随時受け付けております。 https://marshmallow-qa.com/seahope10?utm_ ちなみに今日のお話に出て来た『トカプチ』はこちらです。 獣人オメガバース&授乳男子→https://fujossy.jp/books/10698  同時連載中の『まるでおとぎ話』と『ランドマーク』は定期更新します。(予約更新) 尚こちらの『心の秋映え』の次の更新は24日になりますが、22、23日は他サイト(エブリスタ)の特典で一般には非公開のお話を2日間に限り特別公開します。少しいつもとテンションの違う雰囲気のお話ですが、『宗吾さんと瑞樹の渋谷デート』……番外編として、お楽しみいただけたら嬉しいです。

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