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特典公開 番外編SS 『ふたりの渋谷デート』1

少し時系列が前後しますが、函館から戻ってきて1年後のふたりのイメージの番外編です。 お楽しみいただけたら……♡ **** 「パパー、じゃあ、おばあちゃんと映画観てきます~」 「あぁ楽しんで来いよ」 「パパも、おにいちゃんとデートうーんと楽しんでね」 「まぁまぁ一人前に。さぁ芽生、もう時間だから行きましょう。宗吾、今日は芽生はうちに泊まらせてもいいかしら? 」 「母さんありがとう。じゃあ明日瑞樹と一緒に迎えに行くよ」 「そう? ちょうど私も瑞樹くんに会いたかったわ。一緒にお鍋でも食べましょうね」 「寒いから丁度いいな。鍋は人数が多い方がいいし」  1月も半ば……吐く息も白く、朝からずっと冷え込んでいた。  今日は芽生が祖母と流行りの映画を観に行くというので、渋谷駅まで送り、その後は瑞樹と祝日デートする予定になっている。彼とは一年前から同棲しているが、外で二人きりで会うのは久しぶりなので、新鮮な気持ちだ。  渋谷駅はすごい雑踏で行き交う人で溢れていた。そんな中、グレーのコートに濃紺のスーツ姿の瑞樹が近づいて来ると、そこだけ空気がすうっと澄みわたる気配がした。  俺を見つけるとニコっと微笑んでくれる可愛らしい笑顔は、今日も健在だ。 「宗吾さん!」  よしよし……俺は満足気に大きく頷いて手を振った。(最近ますます言動がオジサンっぽいような。気をつけねば) 「お待たせしました」 「いや、時間通りだよ。それにしても祝日なのに仕事なんて相変わらず大変だな」 「今日はイベントの注文が多くて。でも早めに上がれてよかったです」 「すっかり仕事も順調そうだな」 「はい、ありがとうございます」  去年の今頃は瑞樹はここにはいなかった。函館に居た。そのことを思えば、こうやって祝日に肩を並べて一緒に歩けるだけでも幸せだ。 「どこに行くか」 「とりあえず僕、お腹が空いてペコペコです」 「えっ昼、まだだったのか」  時計を見るともう13時過ぎだ。 「宗吾さんはもう食べちゃいましたよね」 「あぁ映画の時間があったので芽生と早めの昼飯を食べてから家を出た。だが付き合うよ」 「すみません。じゃあお願いします。あの、どこへ? 」 「そうだな。美味しいイタリアンの店があるんだ。どうだ?」 「いいですね」  瑞樹と肩を並べ歩き出すと、少しだけ様子がおかしい。不思議に思い視線を辿ると、振袖姿の女の子をじっと見つめていた。  あぁそうか。さっきから振袖姿の女の子やそれを取り巻くように歩く男子と妙にすれ違うと思ったら、今日は『成人式』だったのか。  区ごとに会館で『成人を祝う会』があるから、こんなに人が集まっているんだな。  でも……どういうことだ。まさか女の子興味が!そんな熱い視線でじっと見つめるなんて、どうしちゃったんだよ。俺という恋人がいながら。  俺も思わず振り袖姿の女の子を凝視してしまった。  瑞樹、高校時代は付き合っていた女の子がいたっていうし、この期に及んで……あぁ心配だ。瑞樹の前では俺は本当になんて器が小さいのか。俺に自信なんて……ないよ。  やがて俺に向かって瑞樹が呟いた。 「モノトーンじゃ……つまらないですよね」  躊躇いがちに言われたが、その意味が分からなかった。瑞樹は少し暗い表情で、やっぱり振袖姿の女の子を見ていた。  眩い程の鮮やかな着物。  色とりどりの艶やかさ。 「ん? そりゃ客観的に見て綺麗だと思うよ。だが、それだけだが」 「そうなんですか」 「それより瑞樹こそ女の子に見惚れていたように思えるが」 「え……違いますよ。宗吾さんもああいう女性がいいのかなって、僕なんて地味なスーツ姿だし」 「馬鹿だな。全く眼中にないよ」  声を大にして叫びたいよ! 「……でも」 「いいか。よく聞け」 「はい」 「瑞樹だけだ!俺が好きなのは」    渋谷のスクランブル交差点の雑踏で、思わず立ち止まってしまった。  熱い視線で瑞樹を見つめると、隣を歩く外人が瑞樹にあからさまにウインクして来た。むむむ……負けていられない。 「ほらっ、早く行くぞ」  瑞樹の手をギュッと掴み、俺はズンズンと歩き出した。 「え……あの、宗吾さん。ここ外です。手、離してください」 「構わないよ。すごい人だし、いちいち皆、気にしてないよ」 「でも……」 「瑞樹は危なっかしいから、ちゃんとついて来い」  勢いでつないだ瑞樹の手は冷たくなっていた。彼なりの葛藤を感じた。  俺のことを心配してくれた気持ちがいじらしい。  まったくなんて可愛い恋人なんだろう。一緒に暮らすようになってもいつまでも楚々として初々しい瑞樹。  君の色しか見えてないよ。    華やかな着物に埋もれない、君だけの色を今日も放っている。 「宗吾さん、本当は僕もさっき……手を繋いでみたかったんです」  ランチのビーフシチューを食べならが、瑞樹がニコっと笑ってくれた。 「今日は寒かったから……」  

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