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心の秋映え 24

「お客様、これ、よく店内から見つけてくださいましたね」 「四つ葉のクローバーは僕の好きなアイテムなので、目に留まりました」 「お客様はラベンダーのハーバリウムを、圧倒的にお求めになられるのに……あの、実はこれ私が作ったものなんです。だから選んで下さって嬉しいです」 「そうなんですか、素敵なデザインですね」  レジの女性店員に話しかけられ、少し照れ臭くなってしまった。 「わぁ!ありがとうございます。あの……」  すると彼女は僕の背後の宗吾さんと芽生くんを見つめ、目を細めてくれた。   「お客様と……お客様の大切なご家族さまに、沢山の幸運が訪れますように」 「ありがとうございます。大切にします」  お母さんからもらった小遣い。  大切なお金を、この四つ葉のハーバリウムに引き換えられてよかったと、しみじみと思えた。  透明のバッグにいれてくれ、テントウムシのチャームをつけてくれた。 「テントウムシは『お天道様の虫』と言われて、幸運のアイテムなんですよ」 「そうなんですよ」 「お家の中にてんとう虫が入ってくると、豊かさに関する幸運が舞い込むとされています。お客様のご家族が実り多い秋を迎えられますように」 「おにいちゃん~ボクもほしいものがあって」 「何かな?」 「おにーちゃんとおそろいだよ」 「ん? ハーバリウム?」 「うん!これだよ!」  芽生くんがニコニコ笑顔で差し出したのは、瓶に入ったマリモだった。 「ねっ、いっしょだよ」 「う、うん」  可愛いなぁ……マリモとハーバリウムが同じだなんて。でも確かに瓶に入った液体といい、小さな子には一緒に見えるかも。 「あれ? でもこれってもしかしてペットかもしれないよぉ!」  おっと、もう一歩進んだ! 「ペット?」 「だって、ここに『大きくなるかも』って書いてあるもん」  くすっ、そういえば小学校の時、似たような話題で盛り上がったのを思い出した。  マリモ(毬藻)は、毬のような形をした淡水性の緑藻で、糸状体と呼ばれる細い繊維が絡み合って丸い形になったもので、光合成をするので餌も肥料もいらない。   「そ、そうだね」  どうしようかな。芽生くんの淡くロマンチックな夢を壊したくないし……何て答えようか。 「だからおにいちゃん、エサもかわないと。ボク、ずっとペットをかってみたかったからうれしいな。おナマエもつけないとね」 「う、うん」  困った……いい答えが浮かばない。 『宗吾さん~』っと助け舟を求めると、彼も懐かしそうな顔を浮かべていた。 「おにーちゃん、どの子にしようかな。もういちど、えらんできていい?」  芽生くんの小首を傾げて、キラキラの期待に満ちた顔。    ううう……罪悪感も感じつつ、その信じ切った笑顔をもっと見たくなってしまうよ。  芽生くんがマリモ選びに夢中になっていると、宗吾さんが傍にやってきて耳元で囁いてくれた。 「瑞樹、今はこのままでいいんじゃないか。まぁ子供らしい夢さ。俺たちだって幼い頃、マリモは生きていてペットだって思ったことあったような」 「くすっ、そうですね」 「成長していくうちに、自然に自分で気づくのも大切さ。大人が手取り足取り、何でも白黒つけなくたって、子供の力で学んでいく事もあるからな。まぁマリモならいいんじゃないか」  宗吾さんのおおらかな考えに、任せようと思った。なるほど、こうやっておおらかな子供が作られていくのかな。 「はい!」  そこで自分だけのマリモを選んだ芽生くんが、嬉しそうに戻ってきた。 「おにいちゃん、パパ、これにする! この子をおうちにつれてかえってもいい?」 「そうか、そうか。芽生、しっかりお世話するんだぞ。適切な温度と光、きれいな水がマリモの栄養になるからな」 「ふぅん……うん。分かった! キレイなお水だね! やっぱりお水ってタイセツなんだね」  僕が芽生くんにマリモを買ってあげた。  こんな風に芽生くんの思い出のアイテムに出資できるのは、嬉しい。 ****  一度部屋に戻り、夕食前に大風呂に入ることにした。  ところが部屋に備え付けの浴衣に着替えて大浴場に向かうと、宗吾さんがどんどん違う方向に進んでいく。 「あの? 宗吾さん、大浴場はあっちですよ」 「いや、家族風呂を予約してあるんだ」 「えっ家族風呂なんですか」 「そう、一度やってみたくてな」 「は、はい……」  急にドキドキしてきた。僕たちだけの貸し切りなんて、初めてで新鮮だ。  マンションのお風呂は流石に狭くて無理だし……  あぁでも……でも!車中で宗吾さんが変な夢の話をするから、意識しそうで心配になってきた。  僕……大丈夫かな。 「おにいちゃん、カゾクブロってなあに?」 「うん、パパと芽生くんと僕だけで、貸し切りなんだよ。つまり3人だけしかいないんだ」 「わぁトクベツなんだね」 「そうだよ」  芽生くんもいるのだから、絶対に変な気を起こさないようにしないと。 (お互いにですよ、宗吾さん)    念を込めて、じっと見つめると、宗吾さんも苦笑していた。 「瑞樹~、お互い体には気を付けような」 「は、はい! い、労わりましょう」 「くすくす、おにーちゃんもぱぱも『おじいちゃん』みたいな会話だね」 「えっ!!」  

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