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心の秋映え 25
「お待たせしました。これで完璧です」
「よしっ、俺もバッチリだ!」
家族風呂の脱衣場で、俺と瑞樹はそれぞれの腰に白い浴用タオルをキュッときつく巻き付けた。
お互いこれだけ重装備になっているのは、それだけ意識しあっている証拠だ。
俺たちはまだまだ新婚気分だよな~
家族風呂を予約した時は、こんな風に情けなく股間を隠すつもりはなかった。むしろ平然とタオルなしで男三人のびのびと家族風呂を楽しむつもりだったのに、何故こんな目に?
これじゃ普通の風呂に入っても同じだったぞ~と声を大にして訴えたい。しかし瑞樹が俺を意識すれば、俺も必然的に瑞樹を意識する。もうこれは連鎖反応みたいなもので、仕方がない。
「あれれ? パパもおにいちゃんも、どうしてタオルまくの? おうちじゃ、しないのに、ここにはボクたちだけだから、いらないよ」
「そ、それは……えっと」
瑞樹は顔を赤くして、俯いてしまった。
「もしかして、おにいちゃん!」
「な、何かな」
「またおケガしちゃったの?」
芽生が心配そうな顔で、ぺらっと瑞樹の白いタオル捲ろうとしたので、俺もつい横目で「おっ!」っと期待に満ちた目を。
「違うよ! 大丈夫だよ。え、えっとね、ここ露天風呂になっていて寒そうだからだよ」
んんっ? おーい、それって、かなり厳しい返答だぞ、瑞樹よ。
「ふぅん……そうか。おにいちゃんはさむがりさんだもんね。でも、いつもスッポンポンのパパまで、どうしたんだろうねぇ?」
「ははは、瑞樹と同じ理由さ」
(ずるいです!宗吾さん)そんな彼の心の声が突き刺さるような厳しい視線を浴びた。
「さぁさぁ、もういいから、早く浸かろう!」
「うん! わぁぁ~ひろいね」
半露天風呂の檜風呂は、解放感に溢れ最高だった。
見上げれば秋の夜空に星が瞬き、湯船から立ち昇る蒸気で視界が霧のように揺らいで、ムード満点だ。
「あー気持ちいいな」
「そうですね」
マンションのバスタブは小さくて窮屈なので、ここでは思いっきり足を伸ばせる。
すると芽生が俺の足にちょこんと腰掛けた。
「パパのあしって、まるたのベンチみたい」
「ははっ、お前は、まだまだちっこいな」
芽生の可愛い尻が乗っても、少しも重たくない。
大きくなったといっても、まだまだ幼稚園児で軽いもんだ。
「むー! ボクもパパみたいに、おおきくなるもん! 」
「そうだな、どの位大きくなるかな?」
「パパとおなじくらい! えっと、おにいちゃんをまもってあげられるくらいだよ」
「へぇ」
瑞樹を守るか……
芽生も、一人前の事を言うようになったな。
瑞樹、君は今……どんな顔している?
横に並んで浸かっている瑞樹を伺うと、芽生の宣言に面映ゆそうな表情を浮かべていた。
おいおい、あまり煽るな。だから、その表情は駄目だって……
彼の憂いのある甘い目元に面映ゆさが加わると、最高にいじらしく可愛らしくて、本気でそのまま湯の中で抱きしめたり、岩場に押し倒したくなるから困るんだよ~!
腰に巻き付けた白いタオルが湯の中で頼りなくひらめいているのを見つめ、ぐっと制御した。
( おーい、最近我慢することが少なくなったせいか、ちゃんといい子に『待て』出来るか心配だな。オレの大きなムスコよ。そうだ……瑞樹と知り合ってからの最初の1年を思い出せ。寸止め、寸止めの嵐を乗り切ったのは誰だ? それを思えば風呂の時間なんてあっという間さ)
俺のやましい心はさておき、瑞樹は芽生に伝える言葉を真剣に選んでいるようだ。
そういう所が、丁寧に真面目に生きている瑞樹らしいよ。
「芽生くん、ありがとう。僕も芽生くんをずっと守りたいよ」
「えー? ボクがまもりたいのに? それじゃだめなのぉ……」
「えっとね」
ふむふむ。成程な……
「あぁあれだな。お互いがお互いの傘になる。それがいいんじゃないか。何と言っても俺たちは家族だからな」
「宗吾さん! そうなんです。僕たち3人は、この先そういう関係でいたいです」
「……カゾクだから、おたがいに……」
芽生が復唱していた。
そうだ芽生、よく覚えておけよ。一方通行の思いばかりじゃ、虚しくなったり負担になったりすることもあるんだ。
俺たちは縁あって家族になった。だから、家族なんだから、ぜひとも双方通行でいきたいよな。
「そうだ、芽生と瑞樹とパパは家族だからな」
「うん!わかった。カゾクっていいね。ボク、すき!」
「宗吾さん、今の……僕が伝えたかった事です」
「よーし、じゃあ3人で躰を洗いっこするか。早速お互いに協力してさ」
「パパ……ひつじのメイもあらってもいい?」
「なぬ! ここにまで持って来たのか」
羊のぬいぐるみを芽生が洗い、芽生の身体は瑞樹が洗う。
そして瑞樹は俺が独占だ!
一列に並んで、背中をよく泡立てたスポンジで洗い始めた。
いいな、家族風呂ならではの光景だ。
これなら瑞樹に遠慮なく触れられるしな。
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