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心の秋映え 26

「ひつじのメイくん、きもちいいかな~さっぱりしたかなぁ」  芽生くんが僕の前で羊のぬいぐるみに一生懸命、話しかけている。  戦隊モノのアニメ好きで最近は男の子らしさが増してきたと思っていたが、相変わらずぬいぐるみが大好きなのって可愛いな。  でも羊のぬいぐるみとお風呂に入るなんて大丈夫かな? モコモコの毛がびしょびしょで、この後ちゃんと乾くか心配になるな。ドライヤーをあてたら毛が硬くなってしまうかな。  あれこれ考えていたら、僕の背中を洗っていたはずの宗吾さんの手が、突然脇の下から滑り込んで僕の胸の辺りに触れたので、ビクッと躰が揺れてしまった。  え! わ、わざとじゃないですよね? 今の…… 「うっ!」 「わ、悪いっ勢いで」 「は、はいっ」 「ん? おにーちゃん、どうかしたの?」 「な、何でもないよ。ちゃんと前向いていてね」(お願いだから!) 「ねぇ、おにーちゃんもパパにあらってもらってキモチいい? ボクはおにいちゃんにあらってもらって、すっごくきもちいいよ~」 「よかった……あ、んっ」  今度は白いモコモコの泡に隠れて、宗吾さんの指が僕の乳首に触れたので、変な声があがりそうになった。 「瑞樹、こっちも洗ってやるよ」 「い、いいですって!」  宗吾さんっ……それはズルイです。  そんな触り方をするのは反則ですよ!   心の中で叫んでしまった。 「瑞樹、気持ちいいか」 「そ……うごさんって人は、もう……」  最初は偶然だったが今は絶対に違う、これはもう意図的だ!  胸の尖りを執拗に弄られると、タオルで隠した腰のあたりがムズムズして、それ以上触れられたら、変になってしまう。  芽生くんがいるのにこれは駄目だ。  でも胸を弄られるのって、気持ちいい。  性感帯にでもなってしまったのか、宗吾さんに触ってもらうと甘い熱が迸る。  あっどうしよう……すごく気持ちいい。    泡の感触と宗吾さんの指という二つの感触に、期待で震えてしまう。 「うっ……」  まずい……これ以上は……逆上せてしまう。  一瞬宗吾さんに身を任せそうになった瞬間、芽生くんの声が風呂場に響いた。 「あーそうだ! パパをあらってくれる人がいなくて、かわいそう! 」 「そ、そうだね」 「おにーちゃん、いっしょにあらってあげようよ!」  芽生くんが嬉々としてスクッと立ち上がり、宗吾さんに子犬のように飛びついた。 「わっ! よせよせ! くすぐったい」 「パパー おにいちゃんをいじめたらダメだよぉ!」 「え? 虐めてなんかないよ」 「でもおにいちゃん、苦しそうな声だったもん!もう~こちょこちょのケイだぞぉ」 「わっ誤解だ! 芽生よせっ、はははっ!」  芽生くんが宗吾さんの脇腹や脇の下を泡のついた手でくすぐると、彼は浴室のタイルの上で大袈裟に笑いながら転げまわった。 「ぷっ……」  その様子が、まるで地べたで駄々を捏ねる小さな子供のようで、思わず拭いてしまった。  お、大人げないですね。 「おにいちゃんもいっしょに、こちょこちょしよう!」 「そうだね!」  僕も好奇心から便乗し、宗吾さんの乳首をどさくさに紛れてつねってみた。 『たまには逆の立場はどうですか』とウインクすると、宗吾さんが珍しく頬を赤らめた。 「お……おい、みずき! それだけは、よせぇぇ――!!」 **** 「宗吾さん、美味しかったですね」 「あぁ北海道の秋の味覚ビッフェは最高だったな」 「食べ過ぎたみたいで、お腹が苦しいです」  無意識にお腹を手で擦っていると、宗吾さんに手を重ねられてドキっとした。 「どれ? おっ随分腹大きくなったなぁ。一体何が入っているんだ? もしかして俺たちの……」 「なっ何を言って!」  お互いほろ酔い気分とはいえ、こんな会話は絶対に変だ。なのに今日の僕は気分が上々のようで抗う気持ちが失せてしまう。  それにしても宗吾さんは夕食を終えて部屋に戻ってからも元気だ。どうして、この人はこんなに体力があるのかな。  普段は大人っぽく包容力のある人だが、子供みたいに無邪気な部分も(大いに)ある。そんな一面を垣間見る事が出来るのも、旅の醍醐味のようで嬉しくけれども。   『旅は特別だ』『旅はいい』と、宗吾さんが豪語する意味が分かって来た。今日の僕は……夜が更けるのを期待している。 「あれ? 芽生くんは」 「お?」  そういえば声がしないと見渡すと、ベッドの上でパタンと行き倒れていた。 「あれ? 寝ちゃったのかな」 「あー風呂場でもハイテンションだったし、夕食も沢山食べて後は寝るだけだもんな」 「ですね。このまま寝かせてあげましょうか」 「そうしよう。子供はいいな」 「確かにそうですね」  ふたりでベッドで眠りに落ちてしまった芽生くんを見守った。  6歳になった芽生くんの世界は、まだ勉強も悩みも少なく平和だ。  天使のようにあどけない寝顔にキュンとした。 「可愛い寝顔ですね」 「赤ちゃんの頃と同じ顔だな。芽生の寝顔は」 「そうなんですね」    宗吾さんはスッと父親の顔になっていた。僕も赤ちゃんの頃の芽生くんを想像してみた。  小さい赤ちゃんを抱っこするのは好きだった。弟の夏樹は5歳も年下だったので、産まれた日からちゃんと覚えている。 「あ、そうだ。羊のぬいぐるみを乾かさないと。ちょっと洗面所に行ってきます」  洗面所でびしょびしょのぬいぐるみにドライヤーをあてていると、宗吾さんが嬉しそうな顔で入って来た。 「瑞樹、改めて今日はお疲れさん」 「宗吾さんこそ! 運転を沢山ありがとうございます。お昼も美味しかったし、花畑は特に最高でした」 「うん、で、今日はもう風呂に入ったよな?」 「はい!」 「夕食も食べたよな」 「?、お腹いっぱいですよ」 「芽生はぐっすり寝ちゃったな」 「ですね」 「じゃあ、いいか」 「あっ、あの」  宗吾さんが一歩また一歩と距離を詰めて来るので、ドキドキしてしまった。  僕だって……僕もこうなるのを心の底で期待していた。  でもそれを話すと、大変なことになりそうだから黙っていた。  こういうのも以心伝心なのかな。    言葉に出さなくても、互いの躰が求めあっている。 「瑞樹が欲しい」  宗吾さんの迷いのない声……熱い視線。  そんなにストレートに求められるなんて。  壁にじりじりと追い詰められ、なんだか僕……まるで羊のようだと苦笑してしまった。 「もうっ……宗吾さんは興奮し過ぎです。僕も、ちゃんと……あなたに抱かれたいのに……」  あぁ結局、自分から言ってしまった。  でも、これでいい。  色付く秋のように……求め合って、深めていきたい恋だから。

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