480 / 1740

深まる絆 11

 うわっ最低だ、こんな場所で人とぶつかるなんて!  焦りすぎて前方不注意もいいところだ。  あれ? でも相手も男性だ。僕と同じくスーツを着たサラリーマンなんて奇遇だな。いやいや、こんな所で男性同士でぶつかるなんて、やっぱり恥ずかしい以外の言葉が見当たらないよ。  俯いたまま硬直していた相手の耳朶も、じわじわと赤くなってきた。  その様子をじっと見つめて、ハッとした。  えっ……ちょっとちょっと待って、この人って……憲吾さんだ!!  僕……この場から速攻消えた方がいい!   じりじりと後ずさり、その場から一目散に逃げた。  憲吾さんは気まずそうに始終俯いていたので、幸い僕の顔は見ていないようだが、気づいたら恥ずかしいだろうし、余計なことをしたのがバレてしまう。  すると店の中で、今度は腕をぐいっと引っ張られた。 「ひ、人攫い!」(な、わけないが……今度は一体、誰? ) 「しーっ、瑞樹、静かに!」  相手は宗吾さんだった。僕の慌てふためいた様子を見て、目を細めて笑っていた。 「悪い、いきなり掴んで驚かせたな」 「そ、宗吾さん!! 何でここに……あの、ま、まさか……僕をずっと見ていました? 」  僕の挙動不審な行動の一部始終を!!  絶望的な気分でがっくしと……項垂れてしまった。 「あぁ見ていた。瑞樹がどうしてと? と、最初は意味不明で滅茶苦茶焦ったぞ。だが、そこに兄さんまで来たので、なるほどなぁ……これは読めたぞ。お姉さん……もしかして」 「あ、そうなんです。そうかもしれなくて……」 「やっぱりそうか! でも何で瑞樹が、わざわざお使いに?」 「ううう……す、すみません」 「謝るなって。どうせ母さんだろ? そういう強引なことすんの」 「……」  はぁ~、一気に気が抜けた。でも宗吾さんが全部先に察してくれたので、説明する手間が省けて良かった。 「も、もう帰りましょう」 「待てよ。瑞樹はこっちに用事があるだろう? 」  ちらっとさっきぶつかった商品棚を覗くと、憲吾さんはもういなかった。どうやら速攻で買って、速攻で帰ったらしい。  で、宗吾さんが嬉しそうに手にしているのは、さっき僕が見ていたヤツだ。 「瑞樹、今度、これを使ってみよう」 「あの……『俺史上最長記録』ってどういう意味ですか 」 「これはだな~ 先端がゆったりしたリラックスタイプになっているから、『2人の時間をもっと楽しみたい人』『相手を思いっきり満足させたい人』に、オススメだそうだ! 俺さ、いつもがっついてしまうから、今度は君をもっとゆっくり……」  宗吾さんがあまりにも嬉しそうに言うので、怒る気にもなれない。一周して僕はとことん彼に愛されてるんだなと、感心すらしてしまう。  うーむ……僕も相当、宗吾さんに感化されているようだな。 「分かりました。それを……試してみましょう」 「よかった。君をもっと満足させたいんだ」 「も、もうっ──」 「いつもそればかり考えているよ」  今度は僕が、耳朶まで真っ赤だ。  本当にこの人は、僕の心を直球で揺さぶってくれる。    宗吾さんといると、どうしたって明るく楽しい方向に向かされるよ。    こんなシチュエーションで出くわしても、笑いに変化させてしまう彼がやっぱり好きだ。  僕にはない強い明るさに惹かれている。 「宗吾さん、どうか……買ったものは鞄の奥深くへ隠してくださいよ」 「了解!! 」  「さぁ帰ろう。俺と瑞樹の『母さん』の元へ」 「はい! そうですね」  珍道中はここまで。  きっと戻ったら、ハッピーなニュースが飛び込んでくるだろう!

ともだちにシェアしよう!