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深まる絆 13
「あら、瑞樹くんが帰ってきたみたいね」
「そうですね。私が出ます」
門がギィ……と開く音がしたので、玄関まで迎えに行った。
「お帰りなさい、みず……っ、えっ憲吾さん? 」
「ただいま、美智」
「は、早かったのね。あの、瑞樹くんとすれ違わなかった? 」
びっくりした。憲吾さんが先に帰って来るなんて、気まずいわ。まさか私があんなものを瑞樹くんに買いに行かせたらと知ったら、気を悪くしてしまうかも。
「美智、ちょっといいか」
「え、あ……うん」
低い声……やっぱり怒られるのかも。どこかで瑞樹君と会ったのかな。
ところが居間の隣のピアノが置いてある部屋に入ると、憲吾さんが照れくさそうにドラッグストアの紙袋を私に押し付けた。
「ほら、これでいいか」
「え、何? 」
「何って君が欲しがったものだろう」
「どういう意味? 」
「とにかく早く中身を確認してくれ」
憲吾さんは珍しく頬を赤らめて、そっぽを向いている。
意味が分からず、慌てて中身を取り出して驚いた。
「な……んで? さっきは『駄目だ。明日病院に行け』って、イライラしていたのに」
「美智、それは……悪かったよ」
突然抱きしめられて、ますます動揺してしまった。この真面目な人が自分の実家で私を抱擁するなんて、一度もなかったのに。
一体どうしちゃったの? あなた、人が変わったみたい。
あ……もしかして宗吾さんや瑞樹くんのおかげ? 彼らの素直な感情に感化されたの?
「美智、私だって努力したいんだ」
「あ……だから買ってきてくれたの? 私こそ、ごめんなさい! あなたには無理だと諦めて、その……実は瑞樹くんにお使いを頼んでしまったの」
「あぁ彼には会ったよ。買う前に私に気付いたから、大丈夫だ」
「そうだったのね。やっぱり憲吾さんが買ってきてくれて嬉しい! ねぇ早速チェックしてみてもいい?」
「あぁ箱に『99%の正確さ』で『1分で測定できる』と書いてあったぞ。私もそれを信じてみたい」
「ん。分かった」
憲吾さんには話していなかったけれども、以前こっそり買っては何本も無駄にしたことあったのよ。でも今日は不思議だわ……確信が持てるの。このお腹に新しい命が宿っていると。
「憲吾さん、こっちに来て」
「あぁ」
ふたりで判定を待つのは、緊張するわね。
「あ……見えて来た」
どんなに待っても見えて来なかった線が、判定窓に今日はくっきり、はっきりと現れた。
「嘘……本当に」
「美智!! この線が出たということは、妊娠の可能性が99%あるのか」
「そうみたい」
「じゃあ、私はその99%にかける!」
憲吾さんが感極まって、私を再び抱きしめた。
「美智……私はもっと物事に柔軟になりたい。父親になるのならもっと広い心を持って、おおらかに子供を育てたい。甥っ子の芽生のように、のびのびと……」
「私も同じよ。ふたりで協力していこう! 芽生くんみたいに素直で可愛い子が欲しいな。宗吾さんと瑞樹くんに、沢山教えてもらおうね」
****
「宗吾さん、荷物、僕も半分持ちますよ」
「いや、これ位、余裕だ」
「やっぱりビールを買い過ぎましたね。すみません、全部持ってもらって」
「それは構わないが。今日の分だけでいいのに、どうしてこんなに? 」
「あの、これは提案ですが……僕たち、これからは、たまにお母さんの家で夕食を食べませんか」
「ん?」
瑞樹の真意が知りたくてじっと見つめると、彼はニコっと微笑んだ。
「その……もしも美智さんがご懐妊していたら、今までのようにお母さんの様子を頻繁に見に来られなくなるかもしれませんよね。だったら僕たちの方が家が近いし、夕食を一緒に食べたりしてもっと交流出来たらいいなと……あの、差し出がましいことを、すみません」
それは、彼らしい優しさに溢れた言葉だった。
「ありがとうな。瑞樹が俺の母を大事にしてくれて嬉しいよ」
「僕は……お母さんには何度も救われました。僕にとって本当に大切な人なんです」
「そうだったな」
俺と瑞樹には、何度躰を繋げても、当たり前だが……永遠に赤ん坊はやってこない。だが俺たちには芽生という可愛い息子がいる。そして俺たちの母もいる。函館や長野にも瑞樹のお母さんや兄弟がいる。
「俺たちは俺たちだ。手が届く場所にいる人達の幸せを願って、生きていこう」
「……すみません。僕……その、少しだけ変な気持ちに……やだな。こんなの……」
「大丈夫だ。瑞樹は自分の感情に素直でいい子だ」
「もう、子供扱いはよしてください 」
「じゃあ大人扱いをしよう。ほら、ちょうどさっき色々買ったしな」
「もう!! 宗吾さんは……平常運転で『ヘンタイ宗吾さん』ですね。くすっ」
「おいおい、そっちは平常運転じゃないぞ」
「くすっ、そうですか」
健気で可愛い瑞樹……
君を今すぐ抱きしめたい気分になってきたぞ。
少しだけセンチメンタルな気分、それでいて幸せな気持ちを分け合いたい。
だから玄関に荷物を置いて、彼の腕を掴んだ。
「瑞樹、リビングに行く前に寄り道しようぜ」
「え? 」
「こっちこっち」
俺は瑞樹の手を引いて、ピアノの部屋の扉をバーンっと開けてしまった。
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