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深まる絆 18
明け方、ふと炊飯器から立ち込める甘いご飯の匂いで目覚めた。
あれ? いつタイマーなんてかけたのか。今日は芽生は給食だから弁当はいらないはずだが。
そこで再び睡魔に襲われる……
頭の中は甘い余韻で一杯だった。
昨夜の瑞樹……可愛かったな。感じやすくなった君の躰は少しの愛撫でも濡れそぼり、内股を震わせながら、激しく乱れてくれた。日中はどこまでも清楚な雰囲気なのに、俺に抱かれる時は少し淫らで可愛いのが、またいいんだよな。
目を閉じたまま昨夜の情事を思い出しニマニマしていると、ジドっとした視線を感じた。
「パパは、おねぼうさんですねぇ~」
なんと、芽生の声だ!
「わっ芽生! いつの間に……瑞樹は? 」
「おにいちゃんなら、もうとっくに起きているよ。で、パパを呼んできてって」
「えぇ?」
いつの間に起きたんだ。って、俺、ちゃんとパジャマ着ているよな。布団の中で自分の躰を思わず探ってしまった。
そのまま飛び起きると窓が全開で冷たい風が吹き込んできた。
「うわ、寒っ」
まぁ……この部屋に換気は大事だよな。と苦笑する。
ちなみにパジャマはちゃんと着ていて、布団も綺麗だった。しかし瑞樹が先に起きたのには、まったく気が付かなかった。俺の方が寝坊とか、カッコ悪いだろ。
「パパっ 早く早くっ。デバンですよぉ! 」
「一体何の出番だ? 」
「それは、れんしゅうあるのみ」
芽生にぐいぐい手を引っ張られてリビングに向かうと、瑞樹がもうキッチンに立っていた。
「宗吾さん、おはようございます」
おーい、昨日の色気はどこに? と思う程、朝日が似合う爽やかな笑顔を向けられた。
「あぁおはよう。どうした? 君が先に起きてキッチンに立っているなんて珍しいな」
「あ、すみません。昨日の話の続きで……母の卵焼きを、焼いてみたくなって」
「あぁその話か」
「それと宗吾さん……やっぱり事前におにぎりを握る練習をした方がいいかなって」
「何故それを」
「……その、いつになく自信なさげだったので」
「参ったな。苦手なのバレてたのか」
「くすっ、えっと……苦手なら練習あるのみです」
『れんしゅうあるのみ』……あぁそうか! さっきの芽生の台詞はそれか!
「分かった。手を洗ってくるよ」
「一緒に頑張りましょうね」
君って……まさかのスパルタ?
****
「うわ、熱っ、アチチっ」
「宗吾さん、頑張って下さい。出来るだけ熱いうちに握るのがいいって、本に書いてありました」
「う、分かった」
そう言えば、母親の手は熱いものに慣れていたが、父はからきし駄目だったなと思い出して、俺も父と同じだと苦笑してしまった。
「握り方ですが、強く握りすぎないのがコツらしいです。ふんわり握るためには強さ加減が大切で、ご飯をかぶせるようなイメージで形作るのが好ましいそうですよ」
「ううう、難しいな」
「わ。パパ……ボロボロぉ……」
「おっと」
つい手に力は入り過ぎて硬いものになったり、力を抜き過ぎて米粒がボロボロになったり散々だぞ。寝坊に続いて、朝からカッコ悪いな。
「お兄ちゃん、ボクお着替えしてくるね」
「ひとりで出来る? 」
「うん!! 」
「偉いね」
「えっへん! 」
芽生が自分の部屋に入って行くのを見届けると、瑞樹がさらに俺に指示を出す。何個か指導通り作ってみたが、どれも不細工な出来だった。
「うーん、今日はこれ位にしましょう。これ以上やっていると会社に遅れてしまいますから」
た、助かった……
瑞樹は案外、職場では手厳しいのかもしれないな。あの金森とかいう後輩も、毎日こんな風に扱かれているのか。気の毒に……いや、アイツと同レベルはイヤだね!
「あの……宗吾さんのおにぎり、美味しそうです。僕が食べても? 」
おっ最後はいつもの可愛くて甘い瑞樹スマイルだ……
ううう、救われた。
だが瑞樹の言う通り、練習して正解だな。ぶっつけ本番だったら、足を引っ張ってしまうところだった。
「瑞樹、俺、明日も練習するよ」
「いいですね。宗吾さんなら、きっとそう言うと思っていました。じゃあ明日は具を入れてみましょうね」
「ははっ、瑞樹は教えるのが上手いな~つい乗せられてしまったよ」
「そんな……宗吾さんには敵いませんよ。教え上手なのは……昨夜だって、あっ……」
瑞樹の頬が赤みを帯びて来る。
お? ちょっと色めいた気分になってくれたのか。
「と、とにかく朝ご飯はおにぎりです! あと卵焼きも食べてみてくださいね」
「それはそうと、君は何か忘れてないか」
「……あっ」
「瑞樹おはよう」
「宗吾さん……」
瑞樹が背伸びして、俺の唇を啄んでくれる。
お・は・よ・う のキスは、今日も健在だ。
「ありがとうな」
「あの、もう芽生くんが来ますので」
照れくさそうにお皿におにぎりをササッと盛り付ける様子に、つい頬が緩んでしまった。
幸せなモーニング。
皆で大きなおにぎりを、モグモグ頬張ろう!
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