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深まる絆 20
「おにいちゃん、明日のお天気、だいじょうぶかな? 」
「天気予報をもう一度見てみようね」
「うん! 」
ニュースで『晴れマーク』を確認して、ふたりでホッとした。
「よかったぁ。でも、やっぱりテルテルボウズ、つくっておくね」
「そうだね。念をいれておこう」
芽生くんがティッシュを丸めて、てるてる坊主を器用に作り出した。
「上手! 」
「にっこりわらっているお顔が、いいよね」
芽衣くんがマジックでとびきりのスマイルを描いてくれたので、僕もつられて笑顔になった。
早めに夕食を食べて、お弁当の下ごしらえをした。それから急いでお風呂に入り、ビデオの充電に一眼レフの電池の確認もして、大きなレジャーシートとお母さんが座る簡易椅子も準備した。
「ふぅこれで完璧かな。ところで宗吾さんって、レジャー道具を沢山持っているんですね」
「あぁ以前キャンプに行ってみたくて集めたんだ。まぁ実現しなかったが」
「そうなんですか。でもこれだけ揃えたのに勿体ないな。あの、どうしてですか」
「あぁ……実は玲子が虫が苦手で……瑞樹は大丈夫か」
あ、言い難い事を聞いてしまったのか。でもそういう理由なら妙に納得できる。
「僕は大沼の自然育ちだし、仕事で花を扱っているので、虫には慣れっこですよ」
「よかった! じゃあ秋が深まった頃に、キャンプに行ってみないか」
「わぁいいですね。11月になれば仕事も落ち着くので是非」
「よし、調べておくよ」
また一つ、楽しみが増えた!
「おにいちゃん、ボク……もうねるね」
「うん、そうだね。今日は早く寝た方がいいよ。おやすみ。芽生くん」
「……おにいちゃん……あのね……おそば、来て」
僕のパジャマの袖を、ちょこんと掴んで引っ張る小さな手がいじらしかった。
「もちろん、いいよ」
これは何か心配事がありそうだな。
芽生くんが眠りにつくまで、手を握ってあげた。
「眠れないの? 」
「うん、ドキドキして」
「……運動会が楽しみで? 」
違う気がした。うまく芽生くんの心を誘導できるかな。
「うーん、ちょっとちがってね……あのね、かけっこで1位になれるかなとか……リレーのバトン落としたらどうしようとか、組み体操でシッパイしちゃったらとか、いっぱい心配になるんだ」
「そうか。僕もパパもね、芽生くんが頑張っている姿が見られたら嬉しいよ。だからあまり考え過ぎないで、思いっきり楽しん欲しいな」
「本当に、それでいいの? 一番をとらなくてもいいの?」
「そうだよ」
「そっか……あのね、ボク、おにいちゃんと話すと、とっても安心できるんだ」
クリクリの瞳の芽生くんが、布団から顔を覗かせホッとした表情で笑ってくれた。
その笑顔が見られたら、僕も十分なんだよ。
運動会は仕事じゃない、結果じゃない。頑張ったという過程が大切なんだよ。
そう言えば、夏樹も運動会の前はこんな風にドキドキしていたな。結局年中の運動会までしか見られなかったけれども……
『おにいちゃん、あしたはずーっとナツキをみていてね』
『うん! みんなでみてるよ』
今は天国から、僕たちのことをみていてくれるのかな。
芽生くん、僕にまたこんなピュアな時間を与えてくれて、ありがとう。
****
「じゃあ、おやすみなさい」
「う……瑞樹ぃ……流石に今日は別室か」
「くすっ危険なもの買っていましたしね。早寝、早起きですよ! 」
「あーあれ、そんなつもりじゃ……参ったな。そんなに思い出深かったのか。そうかそうか」
うっ……しまった。余計なこと言った!
「と、とにかく明日に備えましょう」
「そうだな。芽生の二人のパパが大働きするからな」
「あ……」
うれしい。二人のパパと……言ってくれて。
宗吾さんは愛情深い人だ。いつも大事なシーンで、こんな風に僕の心を鷲掴みしてくれる。
「ありがとうございます! なんだか自分の遠足のようですよ」
「だな。俺もワクワクしてきた」
「僕もです」
小さな子供の親御さんって、皆、運動会の前日には、こんな風にワクワクな時間を過ごしているのかな。
「宗吾さん、おやすみなさい」
「じゃあ、明日4時にな」
「あ、あの……」
妙に聞き分けのいい宗吾さんに、僕の方が名残惜しくなってしまい、思わず……自分から背伸びして唇をそっと重ねてしまった。
4回の啄むキスを届けよう。
「お・や・す・み」なさい……!
「おっ、瑞樹からのキスって、いいな。嬉しいよ。ありがとう」
宗吾さんが心から嬉しそうに笑ってくれる。
それだけで、僕の心も満たされる。
明日、天気になりますように!
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