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深まる絆 21

 夜も明けきらぬうちに、目覚ましに起こされた。 「もう4時か。うーん、まだ眠たいな。昨夜は布団が寒くて、よく眠れなかった」  久しぶりのひとり寝は、想像以上に寂しく寒かった。  最近は宗吾さんのベッドで共寝することが多かったので、彼に包み込まれるように眠る温もりが、いつの間にか当たり前になっていた。  去年の今頃は、一馬が出て行ったマンションでいつも独りだったのに……  あれから1年で、これ程までに生活も気持ちも変化していたなんて。  僕は、今の僕が好きだ。とても── 「宗吾さん、おはようございます。あの、もう台所に……? 早いですね」 「あぁワクワクして目が覚めちゃってな。ご飯が炊けたから、おにぎりを握ってもいいか」  腕まくりして黒いエプロンをつけた宗吾さんが、張り切った様子でガッツポーズをしている。  わっ、4時からテンション高いな。僕はまだ眠いのに。   「え、えっと……あ、そうだ。ちょっと待って下さい。まだ具材の方が……鮭とたらこを焼かないと」 「おお、そうだったな。いいよ。俺がやっておくから、君は顔を洗っておいで。まだぼんやりしているぞ」 「す、すみません」  とにかくまずは目を覚まさないと……目を擦りながら慌てて洗面所に移動した。  小さな子みたいで恥ずかしい。  カーテンを開けると空はまだ真っ暗で、何だか真夜中みたいだ。それでも向かいのマンションやその先の高層マンションの窓の明かりが、点々と灯っていた。  へぇ、もう起きている人がいるのか。  あ……もしかしたら、運動会を迎える家なのかも!  みんなも頑張っているんだ。僕も頑張ろう!  お弁当を作っている間に少しずつ日が昇り、きっと青空が見えてくるだろう。 「宗吾さん、あのぉ……もう少し小さく握れませんか」 「うぉーどうしてこんなビッグサイズになっていくんだ? 」 「くすっ、それは宗吾さんの手が大きいからですよ」 「こればかりはどうしようもないぞ~」 「ですね。でも綺麗な三角です! 流石です! 」  宗吾さんは大きなおにぎりを見つめ、ニカっと笑った。 「ふむふむ、そうだろう? 」 「大きな手も……素敵です」 「ありがとう。瑞樹に言われると嬉しいよ」  満足げに笑う表情は、少年のようだった。  無邪気な人だ。そんな所がとても好きだ。  宗吾さんは、物事を楽しむ方法を知っている。  新しい局面にも、果敢にチャレンジする姿勢も好きだ。  宗吾さんと一緒に暮らせば暮らすほど、彼のいい部分が見えて来る。  僕が持っていない行動力が素敵だ! 「あっ、熱っ!」 「あ、馬鹿。気をつけろ。油には」 「すみません」  寝不足でぼんやりしていたのか……鶏肉を入れた油がピシャっとはね、指を軽く火傷してしまったようだ。 「いや、謝らなくていい。さぁすぐ洗面所で流水で冷やして」 「……はい」 「揚げ物は、俺がやるよ」 「うう、なんだかすみません」 「気にするなって、君が痛い思いをするのを見るのは辛い。特に……指先は大事にしてくれよ。仕事が出来なくなるだろう」 「あ、はい」  洗面所で蛇口をひねると、胸がズキンと痛んだ。  宗吾さんに、また心配をかけてしまった。指の怪我は、あの辛い日々を思い出させてしまう。  まだ駄目だな。  僕は……肝心な時に宗吾さんの足を引っ張ってばかりだ。 「瑞樹? おい、何をしょんぼりしている? まるで叱られた子供みたいだぞ」 「……あの、ごめんなさい」 「だから、どうして謝る? 」 「……あまり、役に立てなくて」 「おいおい、十分立っているぞ? 昨日の夜……芽生を励ましてくれてありがとうな」 「あ……あれを、聞いて? 」     宗吾さんが揚げ物を一旦止めて、洗面所で指を冷やす僕の所まで来てくれた。そして自信を失いそうになっていた僕に、心強く嬉しい言葉を置いてくれた。 「芽生が甘えられる場所を、瑞樹が作ってくれている。それが嬉しいよ」

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