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深まる絆 34

『運動会最後の種目は、年長さんによる全員参加のリレーです』  アナウンスと共に、年長さんがずらりと並んで入場してきた。 「改めて見ると、すごい人数ですね」 「あぁ4クラスあるマンモス幼稚園だからな。芽生どこだー」 「帽子の色で探しましょう。黄緑色ですよ」 「おう! あそこにいるぞ。いい顔してんなー」  宗吾さんが指さす方向に、芽生くんを見つけた。  黄緑色の帽子に、黒い髪。大きな目は再びやる気に満ちていた。  思わず目を凝らして確認してしまった。  目元は赤くなっていないな……泣かずに踏ん張っているね。 「転んでも起き上がって、芽生……小さい時は泣いてばかりだったのに、大きく成長したな」 「そうなんですね」  家に帰ったら是非見せてもらいたい、芽生くんが生まれてから今日までの写真を。  僕も、もっともっと知りたいよ。 「それにしても全員で、たすきを繋ぐっていい競技だな」 「本当にそうですね」  選抜リレーに出られるのは、いつも足が速い子だけ……でもこれなら、皆がリレーの選手だ。  幼稚園からの粋な計らいだ。僕が子供の頃にはなかったな。 「瑞樹、カメラの準備はいいか」 「はい! 」 「よし、そろそろだ」  芽生くんが再びコースを走りだした。応援にも力が入ってしまうよ。 「頑張れ!」 「頑張れ!」  さっき転んでしまったカーブに間もなく差し掛かる。  どうか無事通り抜けて!    そう心の中でギュッと願ってしまった。 「わー!! 芽生、がんばれ!」 「芽生くん、その調子だ」 「よし、芽生偉い!!!!!」  ひと際大きな声をあげたのは、いつの間にか隣にやってきた憲吾さんだった。 「あ、すまん。力が入り過ぎたようだ」 「いや、うれしいよ。兄さんがそんなに熱く応援してくれるとはな」 「あぁ自分でもびっくりだ」  憲吾さんは、なんとも照れくさそうな顔をしていた。  真面目で冷静な彼は、今はいない。  僕たちの芽生くんを、心から応援してくれる存在が嬉しい。  カーブを曲がった芽生くんは、テントの観覧席の前に差し掛かっていた。 「芽生ー頑張って」 「芽生くん、すごい! すごい! 」  おかあさんと美智さんは最高の笑顔を浮かべ、拍手で応援してくれていた。  今は走り回れない二人も、芽生くんの清々しい走りに自分を託しているようで、いい光景だった。  足が遅い子も速い子も、それぞれいい。  競わない子、競う子、たすきを落としちゃう子、転んじゃう子。  120人ほどが走ったので、本当にいろんな子がいた。  人はみんな違う。  こんなに小さな存在……まだ5年か6年しかこの世に生きていない子供でも、こんなにキラキラとした個性がある。  だから僕も……僕のままでいい。  背中を温かく押してもらっている心地になった。  この競技には勝ち負けは存在しない。  そんな小さな物差しでは測れないから。 「瑞樹、なんだかジーンときたな」 「はい、感動してしまいました」  僕の涙の種類は、最近変わった。  前は人知れず泣いていた。  悲しくて寂しくて……  まだ去年の話だ。  でも今は違う。  嬉しくて、温かくて、泣いてしまう。  人はまだまだ変われる。  気持ち次第で、いくつになっても成長していける。  芽生くんの運動会は、僕にとって学びの場にもなっていた。  

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