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深まる絆 35
全員リレーの後は、閉会式だ。
園長先生からの労いの言葉があり、運動会はお開きになった。
幼稚園からは文房具などが詰まったご褒美がもらえて、園児の歓声で沸いていた。
無邪気だね。ご褒美っていいね。
「パパー、お兄ちゃん!」
大きな包みを抱えた芽生くんが、ようやく僕たちのところに戻ってきてくれた。
今日は丸一日ひとりで頑張ったね。
お互い……長かったね。
年少さんは保護者と一緒で参加種目も午前中だけだが、年長さんは午前・午後と出番も多く、親元を離れてずっと座っていなくてはいけない。
「芽生、頑張ったな。泣かなくて偉かったな」
「そうよー! オバサンも嬉しくなっちゃった」
芽生くんの頭を撫でて、憲吾さんも美智さんも満足そうだった。
「あ、ありがとうございます」
少し緊張した顔で、芽生くんがペコっとお辞儀した。
「芽生、今日は疲れさま。おばあちゃんは憲吾たちと帰るわね。芽生の活躍を見られて嬉しかったわ」
「おばあちゃん、今日は来てくれてありがとう!」
「またゆっくりお話ししましょうね。今日はゆっくり休みなさい。もう頑張り過ぎなくていいのよ」
「はい! 」
「ふふっいいお返事ね。瑞樹くんみたい」
「えへへ」
皆が一足先に帰るのを見送ってから、僕たちも帰り支度を整えた。
「宗吾さん、荷物持つの手伝います」
「大丈夫だよ、これ位。それより芽生がだいぶ疲れているみたいだ。芽生の荷物を持ってくれるか」
「あ、はい」
レジャーマット、折り畳みの椅子など、殆どの荷物を宗吾さんが持ってくれた。
宗吾さんは本当に頼れる力持ちだな。軽々と持って颯爽と歩く姿がカッコいい。
僕は芽生くんの靴入れやジャンバーを持ってあげた。芽生くんは参加賞の大きな包みだけを大事そうに抱えていた。こういう所はまだまだ子供で可愛い。
しかし今日の芽生くんは、流石に頑張り過ぎて疲れ果ててしまったようで、いつもと違って静かだった。その様子が少し気になってしまった。
「ねぇ芽生くん、ちょっと寄り道していこうか」
「え? 」
「宗吾さん、アイスを食べて帰りません? 」
「アイス? 」
「こんな日はアイスなんです」
「よく分からないが、行こう」
幼稚園から家まではいつもはバスなので、歩くとかなり距離がある。
芽生くん、とてもマンションまで持ちそうもない。
栄養補給って、必要なタイミングで取らないと意味がないよね。
「おにいちゃん……あのね、もしかして、あそこによってくれるの?」
「そうだよ。前に芽生くんとチェックしたソフトクリームやさん」
「わぁいいの? うれしい。やったやった!」
芽生くんらしい笑顔が、やっと見られてほっとした。
「いいな。俺の大好物だ」
「くすっ、はい、知っていますよ」
通り道のスーパーの入口に停まっているワゴン車で、ソフトクリームが売っているのを調べておいてよかった。
「甘い~おいしい! 」
芽生くんはどこかほっと表情で、アイスをペロペロと舐めていた。
がんばったね、えらかったね。もう泣いてもいいんだよ……
そんな気持ちで見守っていると、芽生くんの目に涙がじわじわ滲んできた。
「あれ? なんかほっとして、涙でちゃったよ」
「芽生くん、もういいんだよ」
「あ……おにいちゃんって、やっぱりまほうつかいだ」
「え?」
「おにいちゃん……あのね、ボク……ころんじゃった」
「うん」
「すごく、くやしかったんだ」
「分かるよ」
「それからね、おひざ……いたかった」
「痛かったよね」
「ボクね、泣かないで、がんばったんだ」
「うん、すごくがんばっていた」
「つかれた」
「うん、頑張ったから疲れたんだね」
「あ……うん、そうなの!」
僕と芽生くんの会話を、宗吾さんは温かい眼差しで見守ってくれていた。
だから僕は芽生くんを向かい合わせに抱き上げて、膝に乗せてあげた。
「疲れたのなら、ここで休むといいよ」
「おにいちゃん。芽生のおひざ、いたい。じんじんする」
「うんうん」
僕は芽生くんの膝に手をあてて、優しく擦ってあげた。
遠い昔……転んでしまった時、母がしてくれたように。
「痛いの痛いの……飛んで行け!」
芽生くんと見上げたのは秋の空。
どこまでも澄んだ青空だった。
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