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恋満ちる 11

3人で腹を抱えて、笑い転げてしまった。  菅野は明るい性格なので宗吾さんとノリが合って、僕を沢山笑わせてくれた。あぁ笑い過ぎて、お腹が痛いよ。最後には「あーん♡」と、お互いにノリノリで食べさせっこまでするので、もう可笑しくて!  で、菅野……ソファで撃沈してしまったのか。宗吾さんも寝落ちしてしまいそうだし、早めにベッドに行かさないと。 「宗吾さん、そろそろ寝ましょうか。えっと……菅野はこのままで?」  ソファからずり落ちそうな体勢で、イビキをかいている。 「あぁこのままでいいんじゃないか。気持ち良さそうだし」 「でも……風邪引いちゃいますよ。せめて布団を」  あいにく客用布団はないので、僕の布団をかけてあげた。普段使っていないから、いいよな。 「おやすみ、菅野」 「うーむ、瑞樹の布団か……よし、じゃあこれも置いておこう」  宗吾さんが菅野の顔の横に、またアイマスクを置くので笑ってしまった。 「もう、まだアイマスクにこだわっているんですか」 「ははっ、これは菅野のためだ。さぁ瑞樹も寝るぞ」 「待って下さい。最後に芽生くんの様子を見てきます」 「おー、じゃあ寝室に先に行っているよ」 「はい! 」  芽生くんの部屋を覗くと、案の定、布団を蹴って床に落としていた。 「ふぅ……また落としている。これじゃ風邪を引いちゃうよ」  拾って、ふんわりと布団を掛けてやると、その拍子に起きてしまった。 「ん……おにいちゃん? もう……朝なの? 」 「ごめんね、起こしちゃって。まだ夜中だよ。おやすみ」 「ん……おしっこぉ」 「そっか、今日は一緒にジュースを沢山飲んじゃったもんね。一度行っておこう」 「うー、ねむいよ」 「でも漏らしたら大変だよ」 「あ、それはもういやだー」 「ごめんごめん。おいで、一緒にいこう」 「うん、だっこぉ……」  芽生くんはまだ甘えっ子だ。同じ年長さんでも、男の子の方がずっと幼いのかも。相変わらず可愛いな。 「おいで」 「うん! 」  僕の首に回る小さな手、まだ細い腕が愛おしい。すると首元に顔を埋めた芽生くんがクンクンと匂いを嗅いでいた。 「あれ? おにいちゃん、パパと同じ、においだぁ!」 「えっ……」  ギョッとした。だって今日は菅野がいるのでキスすらしていないのに……なんで? 毎晩、宗吾さんに触れられまくっているから、残り香が……いやいや、まさか。百面相をしていると、芽生くんに笑われてしまった。 「おにいちゃん、ボクがねむったあと、ビールをいっぱいのんだでしょう」 「あ、そっちか」 「うん? 」 「ははっ、いっぱい飲んじゃったよ」 「お友だちと、たのしかったんだね」 「うん、そうなんだ」  僕の大切な人同士が繋がって、仲良く笑ってくれていた。それが嬉しかった。 「おにいちゃんとカンノくんって、『シンユウ』っていうんだよね」 「『親友』か。芽生くんは難しい言葉を知っているんだね」 「うん! おばーちゃんはボクにいろんなことを教えてくれるよ」  あぁ宗吾さんのお母さんなのか。繊細な言葉、嬉しい言葉を、優しい言葉を、幼い芽生くんに沢山伝えてくれているのは……それが嬉しい。  芽生くんに伝わった言葉は、こんな風に回り回って、僕の元にやってくる。 「おやすみ……おにいちゃん」 「うん、安心しておやすみ」  芽生くんは布団に入ると、またすぐに眠ってしまったので、僕は菅野の横に座り、ペットボトルの水をクイッと飲んだ。  僕の数少ない友達……菅野。  眠っている菅野に向かって、独り言のように囁いた。 「菅野、今日はありがとうな。あのさ、君を僕の親友と思ってもいいか」  心から理解し合える友人、信じあえる友、お互い仕事に真摯に向き合っている友。心友、信友、真友……全部、菅野にあてはまる。 「僕と宗吾さんとの関係を曝け出せたのは、菅野だからだ。僕の秘密を守ってくれる。それに僕を笑わせ、嫌なことを忘れさせてくれる。一緒にいて安心できるし、僕の幸せを喜んでくれる……そんな菅野は僕の親友だよな? 」  菅野は眠っているので返事はない。だから心のままに素直に話しかけてしまった。口に出すと、すっきりした。しかし同時に猛烈に恥ずかしくもなった。 「おやすみ、菅野」  僕は、こそばゆい気持ちになりながら、宗吾さんの元に向かった。  

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