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恋満ちる 12
「葉山っ、待てよ」
思わず呼び止めてしまった。何故なら、寝たふりをするには勿体ない最高の告白だったから。
『親友』と、面と向かって、この歳になって言われるのは猛烈に照れ臭かったが、あの葉山が俺にここまで心を開いてくれたのかと思うと、嬉しくて黙っていられなかった。
「か、菅野、起きていたのか。もしかして今の聞いてしまった? 」
「ありがとう。葉山からそんな風に思ってもらえて、感激だぜ」
葉山も顔が真っ赤だが、俺も負けていない。
「二人して、茹で蛸みたいだね」
「照れ屋なのも似てんな。俺達」
「うん、性格は菅野と真逆なのに、何だか心地いいよ」
「俺もさ!」
葉山特有の愛くるしいニコッとスマイルを見て、心から思った。
親友のコイツの、この笑顔が曇らないように、社内でお前を全力でサポートする。お前がいつも仕事で俺を支えてくれるように、俺も役に立ちたい。
「さぁもう行けよ。宗吾さんの所に」
「え、うん……」
「そうだ。俺さ『見ざる聞かざる言わざる』だから、大丈夫だからな」
手のひらにのせたアイマスクと耳栓を見せると、葉山は目を丸くした。
「え? アイマスクは分かるけれども、耳栓なんて、いつの間に? 」
「くくっしかし滝沢さんっていいな。葉山みたいな奥手な奴には、あの位押しの強い性格と独占欲も大事さ」
「も、もうっ何を言って」
「あーもう眠い……ほら、彼氏んとこ行けよ」
「う、うん……」
さぁ早く寝よう。これ以上の引き止めは野暮だろう。
しかし葉山を見ていると、俺にも誰かいい子がやって来ないかな~と願ってしまうよ。
恋っていいな、愛っていいな。
****
「瑞樹。おいで」
「宗吾さんも起きていたんですか。まさか……さっきの話、聞いて? 」
「あー悪い。聞こえてしまった」
「ううう、もう恥ずかしくて溜まりません」
「どうして? 俺は嬉しかったよ。瑞樹にいい親友が出来てさ。あいつはいいな。ちゃんと理解してくれている」
宗吾さんは布団で半分寝堕ちしている状態だったが、僕の気配を感じると身を起こし、僕の手首を掴んでベッドに誘ってくれた。
「おいで、眠ろう」
菅野がいるので、一緒の布団で眠るのは今宵はやめようと思っていたが、宗吾さんからの熱い視線を浴びると、やはり寄り添って眠りたくなってしまう。
「えっと……お邪魔します。でも耳栓まで用意するなんて、呆れましたよ」
「え? 俺が置いたのはアイマスクだけだぞ? 」
「じゃあ、あれは菅野の私物? 」
「へぇ~耳栓をわざわざ持参で? ほら、やっぱりイイ奴だ」
宗吾さんが先に温めてくれていた布団はあたたかくて、すぐに眠気が襲ってきた。
「もう寝ちゃうのか」
「ハイ……寝ますよ」
「んーじゃあキスだけ」
「もう……でも、僕も欲しいです」
「んっ」
「んんっ……あっ、っ、深すぎます。んっ……」
酔っているので、すぐに蕩けた心地になってしまう。
キスをすると、少しほろ苦いビールの味がまだ微かにした。歯磨き粉のミントの香りと混ざって、アンバランスでおかしくなってしまった。
「宗吾さん……今の僕は大好きな人と親友に恵まれて幸せです。何か特別なことに幸せを感じるのではなく、これといった悩みもなく、安定した心のおかげで、毎日、隅々まで楽しめ、幸せだと感じられている感覚なんです。これって少し怖いですね」
そもそも僕が幸せだと声に出していいのだろうか。
宗吾さんの胸元に頬を寄せて、聞いてみた。
「怖がるな。瑞樹の幸せは……ただで降ってきたものでは、ないだろう。君が今まで真面目に、健気に頑張ってきたから感じる幸せなんだよ」
あぁ宗吾さんはいつだって、強く大きな安定感のある心で僕を支え、引っ張ってくれる。
「宗吾さんと暮らすようになってから、心が潤っているからですね。きっと」
そうだ、すべては心次第だ。
「僕は宗吾さんと周りの人たちと接するうちに、知らず知らずに自分の心を癒やせていたようです。間もなく、あれから1年経ちますが……ちゃんと幸せだと感じられる僕になっていて良かったです」
「……瑞樹、君は切ないことを……」
宗吾さんに力強く抱きしめられたまま……眠るのが好きだ。
「そうしていて下さい。僕が深く眠るまで……」
悪い夢は見ない、宗吾さんがいるから──
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